宵の攻防


これのちょっと前の話みたいな)

任務後、家で大学の課題をしていたら、みょうじの友人だと言う男から連絡が来た。
用件は至極単純で、みょうじが酔っぱらっているから迎えに来いと言う。酒に弱いくせ、しょっちゅう飲んでは歩けなくなり、困った友人は俺に連絡をよこすのだ。
家が近いからとか、そんな理由で呼び出される俺の身にもなれ、と何度言ったところで、彼が飲み歩きをやめたためしがない。

迎えにいかなければ不祥事を起こしかけるしで、半ばあきらめてもいた。
そうやって、甘く見ていたのがよくなかったのかもしれない。


勝手にポケットをあさって出てきたカギで、みょうじの家のドアを開ける。足を引きずりながら家の中に入ると、肩にかついでいる体がふいに重くなった。

「おい、寝るな。重くなる」
「うー……」

酒臭い息を吐きながら、眠りかけているみょうじが俺の肩にぶら下がった。

自分と同程度の身長の男を支え切れるほどの力は(悔しいことに)ないため、突然重くなった肩につられてその場に倒れこむ。何が面白いのかみょうじはけらけら笑った。
その様子にイライラしながら立ち上がり、倒れたままの体を蹴り飛ばす。

「おら、とっととベッドまで行け」
「えぇー、二宮一緒にいこうよぉ」
「……人に絡むのもいい加減にしろ」
「ぶー」

不満げな声が足元から聞こえてくる。こちらの気も知らないで、ずいぶん呑気なことだ。

起きる気はなさそうなので、仕方なくみょうじの腕を引く。しかしそれでも立たないので、今度は両腕を掴んで、寝室まで引きずった。
ようやくベッドまでやってきて、肩を貸してやりながら、敷布の上に寝かせた。
どっと疲れたような気がした。

「はぁ……」
「二宮おっつー。あはは!」
「…………」

ちょうど手近にハードカバーの本があるのだが、それをコイツの顔面に叩き落としてもいいだろうか。
しまりのない笑みを浮かべながら目を閉じているみょうじの顔を眺めて、本棚に伸びかけた手をその額へと持って行く。

指先で前髪を払いのけてやると、くすぐったそうな笑いがこぼれた。

「……みょうじ」
「んー」

起きているのかいないのか、よくわからない返事を返しながら、みょうじが俺の手にすり寄った。その様子を見て、思わず頬が緩む。
不祥事さえ起こさなければいい、と最近はそう思うようになってきた。
そうすれば、こうして甘える姿を見ることができる。顔を合わせば嫌味が口を突いて出るものの、決してこいつを嫌って出てくる言葉ではなかった。

本人にはまったく伝わっていないようだが、嫌いならわざわざ、こうして迎えに行ったりはしない。

「……」

みょうじの指の関節あたりに唇を落とす。これくらいは駄賃としても文句はないはずだ。

どうせ朝になればすべて忘れて、また性懲りもなく酒を飲み歩くのだろう。そうして再び俺に連絡が来て、悪態をつきながら家へ連れて帰って、ほとんど寝ているみょうじを見て優越感を抱く。それが一つのループだ。
不毛であることは自分が一番わかっている。それでも、些細なつながりでいいから欲しかったのだ。

女々しいことを思う己を嘲って、そろそろ帰るかと、体を出口へ向けたとき。
ふと、服の袖を引かれた。

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