□もしもあの場に彼がいたら
案の定、隙間から液状化で抜けてきたエネドラは、その弾丸たちを見ると鼻で笑った。
やはり命中しても効果はないようで、穴はすぐにふさがってしまう。
「さすが猿の国、罠も猿レベルだな、オイ」
護身用トリガーの裏に跳ぶと、エネドラが攻撃のモーションを見せた。
逃げるエンジニアを背に、フルガードを展開する。無残に壊されたトリガーの破片が散らばった。
あわやエンジニアの胴体を貫きそうになった攻撃は、威力を調整したメテオラで撃って相殺する。
『みょうじ、大丈夫か!』
先ほどと同じく、通信が入る。今度は堤だった。
『大丈夫だと思うか?』
『あんまり思ってないな!』
正直なやつだ。その通りではあるが。
片腕がないから、ひたすらメテオラを撃つだけの機械と化しているが、足止めになっている様子もない。壁から床から天井から、あらゆるところから刃が生えてくる。
右足も左足も削られつつあるし、換装体が壊れるのは時間の問題だ。
『そのまままっすぐ進んでくれ! 後は諏訪隊で引き受ける!』
『諏訪さん復帰したのか?』
『ぴんぴんしてんぜ。メガネはこっちまで引き付けたら、訓練室のモニターんとこ急げ!』
『了解』
訓練室。
仮想戦闘モードか、なるほど。
腹に刃が一つ突き刺さり、トリオンが漏れ出す。ばきりと、顔にひびがはいった。
警告音を聞きながら後ろに跳び退ると、エネドラはにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「オラオラどーしたあ? 限界が近いみてーじゃねーか!」
ここに来ての、攻撃の連発。
銃を持っていた右の手首も持っていかれて、とうとう攻撃ができなくなった。
が、もう俺の手は必要ない。
『よけとけ、みょうじ!』
通信を聞いて、俺は即座に床を蹴って飛び上がった。
派手な快音とともに、ショットガンの銃弾がエネドラに撃ち込まれる。どうやらたどり着いたようだ。
俺は腕の関節部分をギャラリーの手すりにひっかけ、体を回転させて降り立った。
バキバキとひびが大きくなっていった。
「助かりました、諏訪さん」
「おう。まだ動けるか?」
「指示を遂行できる程度には」
「了解だ。……しっかし、新型の次は黒トリガーかよ! 復帰早々クソめんどくせーのが来やがったな!」
「はっ。出たな、雑魚が」
エネドラはさらに好戦的な笑みを浮かべると、またあの液状化でこちらに迫ってきた。
それを飛んでかわして、諏訪さんと堤が同時に撃ち込む。
『みょうじ、今のうちにモニタールームへ!』
『わかった。位置取り注意しろよ』
堤に言われた通り、モニタールームを目指す。
そのとたんに背中を刺され、とうとう換装体は壊れた。
『戦闘体活動限界、緊急脱出』
そんなナビが聞こえてくるものの、俺の体は転送されず、その場に再び立つ。やっぱりおかしくなっていたようだ。
「あぁ!? メガネなんでお前緊急脱出しねーんだ!?」
「前来てますよ」
追撃が来ないうちにと、俺はしばらくぶりの全力疾走をした。
「みょうじ。お前なんで緊急脱出できないって言わなかったんだ?」
「いや……直してもらおうと思ってて……」
「なんで、言わなかったんだ?」
「……タイミングを……逃したというか……」
「そうか。とりあえず忍田本部長と城戸司令と鬼怒田さんが呼んでるから行ってこいよ」
「どう足掻いても絶望」
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