天邪鬼と告白?


マジで何を考えているかわからないみょうじに(なぜか)悶々としながらも、日にちは勝手に過ぎていく。

あれだけ面倒がってた、というか、興味もなさそうだったみょうじが、なんでいきなり行く気になったのか。告白、という言葉を聞いて反応したのはなぜか。

気にはなるけど、あの後邪魔だからと追い出されてしまったので、それ以上は聞けなかった。なら電話で、と思ったら、おれはみょうじの連絡先を知らなかった。プライバシーがどうとかで、最近は学校でも連絡網を配らない。詰んだ。

そしてやってきました、合コン当日。
待ち合わせは午後1時、三門駅前。そういえば映画行ったのもここだったなと、つい最近のことなのになぜか懐かしく感じた。

幹事である女子、もといみょうじ狙いの長谷川はすでに来ていて、気合の入った格好をしている。おれの姿を認めると大きく手を振ってきた。

「出水、こっちこっち!」
「おー」
「今日はほんとにありがとね!」
「あー、別にいーって。気にすんなよ」

近くに寄ると、長谷川から香水らしきものが香る。
甘くていかにも女の子、といった感じの。いい匂いだな、とは思ったものの、なんでかみょうじがよく纏っている花の匂いと比べてしまった。なんでかな。
あいつのほうがもっと爽やかな感じだ。

今日は絶対成功させると息巻く長谷川に、適当に相槌をうちながら待つこと数分。
うちの生徒の女子2人、他校の生徒だという女子1人と男子2人、待ち合わせの時間から少し遅れてみょうじが到着した。

男子全員、気合が入っているのは窺える。雑誌に載っていそうな服を身に着けて、おそらく髪やアクセサリーにも気を遣って。それでも女子の視線はみょうじが独り占めで、顔面格差というものをまざまざと感じた。

それにしても、あいつは今日、どういうつもりで来たんだろう。
告白を受け入れるのかと聞いたら鼻で笑ってごまかしたし、真意が読めない。ちらりと視線をやったら、偶然目があった。すぐそらされてしまったが。

いくつもの疑問を抱いたまま、おれらは全員揃ったところでカラオケへと向かった。


「えー、ではこの良き日を祝しましてー、かんぱーい!」

かんぱーい、と5つ分の声が重なる。

長谷川はがっちりみょうじの横を確保して、自分のグラスとみょうじのグラスとを小さく打ち合わせていた。抜け目がない。

おれの隣には死んだ顔の茶髪が座り、絶望的な表情で長谷川のほうを見ている。どうやら彼女を狙っていたらしい。どんまい。

「ねー、最初誰歌う?」
「あ、じゃあ俺行こうかなー。この曲誰か知ってる?」
「あたし知ってる! 一緒していーい?」

死んでない黒髪と目の大きい女子がマイクを握り、軽快な音楽が流れ始めた。そういえばCMか何かで聞いたことあるかもなと思い出しつつ、手拍子で盛り上げる。
タンバリンやら手拍子やら、にぎやかなおれたちと違い、みょうじと長谷川は2人だけの世界に入ったようだった。

上目遣いに何かを言う長谷川、笑みを浮かべてその話に相槌を打つみょうじ。
お互い容姿は整っているから、まさにお似合いのカップルというやつ。

「ね、出水くんだっけ?」

ぼうっとそちらを見ていたら、いつの間にか隣に座っていた女子に話しかけられる。
にっこり微笑む彼女は、さっきまでタンバリンをたたいていた他校の女子。名前は確か、……斉藤?

「斉藤、であってる?」
「惜しい、佐藤でした。ねえ、出水くんってなっちゃん狙い?」

なっちゃんというのは、長谷川のあだ名だ。

「や、別に。おれ人数合わせみたいなもんだし」
「そうなの? じゃあ、人数合わせ同士、乾杯」

オレンジジュースの入ったコップを掲げられて、おれは机から自分のジュースを取り上げ、かちんと音を立てながら触れ合わせた。
両手でコップを持って飲む佐藤の姿を見ながら、首をかしげる。

「佐藤……さんも人数合わせなの?」
「佐藤でいいよ。うん、私ほんとはね、彼氏いるんだ。でも断れなくて……黙って来ちゃった」
「ふーん」

押しに弱そうな佐藤の顔を見ながら、なら彼氏をいることを理由に断ればよかったんじゃないかと思う。まあ女子の付き合いは複雑だというし、それだけでは断れなかったのかもしれないが。

もしおれが彼氏だったなら、と考えてみたが、やっぱり相談くらいはしてほしいと思う。
もしくはきっぱり断れる子。柚宇さんなんかは、遊びに誘われても今日はゲームの発売日だからとゆるふわに断る。いやあそこまできっぱり断らなくてもいいけど。

「出水くんはいないの? 彼女とか、気になる人とか」
「いないいない。おれボーダーだから基本そっち忙しいし」
「え、ボーダーなんだ? モテそうなのに……もったいなくない?」
「いやもったいないって……」

もったいなくはない、と思う。

そりゃ、つらいこともきついこともあるけど、入って後悔はしていない。
トリオン量が多いだとか、シューターとして上位にいるとか、そういうことはボーダーに入らなければわからなかったことだし。
とはいえ、17歳という年から見ると、任務や模擬戦にばかりかまけて彼女も作らないというのは、もったいなくも見えるのか。

……おれがもったいないなら、いつもバイトばかりしているみょうじももったいない高校生に入るのだろうか。
今日はなぜか、みょうじのことばかり考えている。

自分の彼氏がいかにかっこいいか、恋人のいる学校生活がどれだけ素晴らしいかを語る佐藤に、おれはあいまいに頷くマシーンと化した。
気が付くとみょうじたちのほうをうかがってしまう自分を、不可思議に思った。


スノードロップ:恋の最初のまなざし

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