最後に微笑むのはふたり一緒で


わたしとみょうじさんの合同チームに大敗した太刀川さんは、リトライしようとしたところで忍田ストップが入ってしまった。
忍田ストップとは、レポート提出を怠った太刀川さんを捕獲し、監視役の誰か(今回は風間さんだった)に引き渡すシステムのことである。

任務までには戻すと言っていたけど、場合によっては太刀川さんの代わりにみょうじさんが出ることになりそうな感じ。
ゲームキューブのふたを開けて、小さい円盤を取り出す。

「マリパのミニゲームもやりつくしたねー。ねえ、次なにやる?」
「…………」

わたしがそう尋ねると、みょうじさんは少し考えてから、カセットが入っているカゴから一つを取り出した。赤、青、黄色の小さな生き物が描かれたそれ。

「ピクミン? いーよいーよ、初代ひさしぶりー」

パーツが集められなかった場合のバッドエンドがそれなりに怖かったことを思い出しつつ、カセットを入れ替える。
プレイヤーはわたしで、みょうじさんは見学するらしい。
おなじみの「ぷーぷー」の後、緑の描写がきれいなオープニングを眺めているみょうじさんを見て、言葉が口をついて出た。

「みょうじさん、迅さんと何かあったの?」
「……」

たれ目を見開いて、それからちょっとだけ苦しそうに笑った。うーん、いつもの笑い方とちょっと違う。
いつもはもっと、やわらかいっていうか、家族に向けるみたいな優しい笑い方なのに。

わたしがそんなことを思っているとは知らず、みょうじさんが不思議そうに首を傾げた。なんでわかったのって顔だ。

「んふふー、女の子をなめたらいかんよー。恋愛話には敏感なんだよ」
「……」
「ていうか、みょうじさん今日全然笑ってないんだもん」

太刀川さんに連れられてここに来た時も、ゲームしている間も、なんだか無理をしたような笑い方で。ツボが浅いみたいで、しょっちゅう爆笑しているのに、今日はそれもない。
何かあったんだと考えて間違いなくて、そしたら理由は自然と限られる。

「ねえ、わたしでよければ相談のるよ?」

「……」

ちょっと考え込んでるような間があってから、わたしの頭に優しく手が乗った。
この人はちょいちょいわたしのお兄ちゃんみたいに振る舞う。出水くんに対してもそうなんだけど、昔の特訓のせいか、未だに怖いみたいだ。

チャッピーを倒しながら、隣でさらさらと文字が書かれる音を聞く。
赤いオニヨンに獲物が吸い込まれていったあたりで、隣の音がやんだ。
隣を見ると、画用紙を抱えているみょうじさんが、緊張したような顔でわたしを待っていた。

「読ましてー。あ、赤ピクミン増やしといてね」
「……」

コントローラーと画用紙を交換して、内容を読む。

いつもより小さな文字で書かれた文章をざっくりと要約すると、迅さんと一時的に別れたこと、迅さんが信じられなくなったこと、知り合いに告白されて、それを迅さんに見られちゃったことなどなど。
びっくりするほど迅さんのことばっかり。迅さん大好きなのは知ってたけど、ここまで。
ところでさっきからばちゃばちゃ水音がするけど、みょうじさん赤ピクミンを水に入れたりしてないよね。

「ふむふむ……。なるほどねえ」

みょうじさんはこっちをうかがっている。ピクミンは50匹ほど減っていた。
コントローラーを受け取りながら、読んでまず思ったことを口にする。

「それで、迅さんと仲直りしたいの?」
「……」

たっぷりの間を置いて、みょうじさんはこくりとうなずいた。
その後すぐに顔を俯かせて、何事か考えているようだった。言わんとしていることを察して、言葉を先取りした。

「でも、仲直りしないほうがいいかもって思ってる?」

また、こくりとうなずく。

仲直りしたいけど、仲直りしないほうがいいと思っている。それはつまり、相手のことを考えているから、自分の気持ちを押し込めようとしているということ。
人のことを思いやって、結局自分が苦しくなってしまうんじゃ、あんまり意味がないのになと思う。特に、思いやっている相手がまた、この人のことを一番に想っているのに。

「みょうじさんってさあ、結構感情で動いちゃうよね」
「……?」
「うん、そう」

みょうじさんの膝に頭を乗せて寝っ転がる。迅さんの特等席、今日はわたしが使っちゃう。

「太刀川隊やめるときも、相談しないで、邪魔になりたくないって感情だけで決めちゃったでしょ」

それを言うと、むにむにとほっぺをいじられた。気まずいみたいだ。

太刀川隊をやめるときもそうだけど、さっきの文章を見てもそうで、事実ってよりは(珍しく)感情の方が多かったように思う。人を優先するあまり、自分のことを表現するのが下手になったのかも。
もしかしたら、迅さんについてのことだけかもしれないけど。

手を伸ばして、みょうじさんの心臓のあたりにぺたりと手のひらをくっつけた。

「整理してみて。今この時の感情だけじゃなくて、迅さんとの思い出とか、今までのこととか。とにかく全部、時間がかかっても。そしたらきっと」

迅さんとみょうじさんが一緒にいるのを見るのが好きだった。
お互いがお互いを一番に想っているのが伝わってきて、わたしまでほかほかと暖かくなってくるから。
二人がすれ違ったまま、離れて行ってしまうのも、みょうじさんが笑わなくなってしまうのも、わたしは嫌だ。

「みょうじさんがどうしたらいいかちゃんとわかるから」

オペレーターの仕事と一緒。
戦場のあらゆる情報を集め、隊員の動きや状態を見極めて、最適な解を打ち出す。
わからなくなって、信じられなくなって、迷走しても。
迷路は、手をついてゆっくり進めば、どんなに遠回りでも必ず出口に出られる。

みょうじさんはわたしの顔を見て、ちょっと驚いた顔をした。そしてその後、にっこり笑って、ぐしゃぐしゃとわたしの髪をかき回した。



いつの間にかみょうじさんの膝で寝落ちしてしまったらしくて、目覚ましの音で目をさましたらもう誰もいなかった。モニターも消えていて、わたしの体には毛布。
机の上にはみょうじさんの字で書置きが残してあった。

『旅に出ます。探さないでください。


2,3日したら帰ります。任務頑張ってね。

PS,ありがとう。あとごめん(-ω-)』

ちゃんと答えを見つけられたらいいなと、そう思った。

「……あ、ゲームオーバーになってる! オリマーが!」

あと、みょうじさんにはもうピクミンさせてあげないことにした。

お題:確かに恋だった


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