天邪鬼の笑顔


みょうじと映画に行って、ボーダーに入りたかった理由を聞いて。
明確に何かが変わったわけじゃないけど、少しだけ距離が縮まった気がした。

まあ気がするだけで、実際はいつも通りの激辛対応なんだろうけど。


「よー、弾バカ」
「バカいうな槍バカ」

任務を終え、だれかとランク戦でもしようかとブースへ向かっていたら、槍バカと遭遇した。向こうは今来たところのようで、まだ制服姿だ。

流れで一緒に歩いていると、はたと槍バカが足を止め、俺のほうを向く。

「そういえば、お前ってさ、みょうじとそんな仲よかったっけ?」
「はぁ? なんだよいきなり。……普通じゃねえの」

突然そんなことを尋ねられ、少しどきりとした。

なんでいきなりそんなことを聞いたのかという疑問は残るものの、一応質問には答える。

仲がいいとは言えないだろうが、険悪というほどではない。向こうがどう思っているかは知らないが、まあ悪い気はしていないはず。
逆恨みされてるけど。

おれの答えに、槍バカはふーんと不思議そうにうなずき、少しだけ首を傾げた。
そして、衝撃的な発言をした。

「昨日お前ら映画行ってただろ?」

ぎょっとして目をむくと、やっぱりあれそうなのかーと笑った。あれってなんだよ。

「え、なんで知ってんの」
「ん? ああ、クラスの女子がツイッターでつぶやいてた」

見せられた携帯には、おれの後ろ姿と、ストローの袋を結んで微笑むみょうじの写真。

今改めて見ても破壊力がすごい、じゃなくて、これ撮られてたのか。盗撮じゃねーか。

映画のこともついでのようにつぶやかれていて、わりと最初から見られていたのにようやく気づく。映画から、あのときのイレギュラー門、そこから喫茶店。ほぼ丸一日見られていたらしい。

まじまじとその画像を見ながら、槍バカが言った。

「あいつこういう顔すんだなー。完全に力抜いてる」
「……まあな」

第三者から見て、リラックスした笑顔。

おれだってあんな表情を見たのは初めてだったけど、他の奴も見たことがなかったんだと思うと、少し得した気分になる。

しかし、槍バカが次に言ったことに、少しだけ思考が停止した。

「こりゃまた競争率あがるだろーなぁ」
「は」

競争率。

「……あー、そーだな」

みょうじはモテる。

優しくて(おれ以外に)顔がよくて(おれにはたまにヤクザみたいな顔する)、成績優秀。1年の時はもっとすごかったと聞いた。
玉砕数が増えるにつれ、わざわざ告げる人間も減ったんだろう。

でも、もしみょうじが誰かと付き合うことになったら。

「…………」

あの笑顔とか、自分にだけ素を見せてくれている優越感のようなものとか、そういうのが全部、その付き合ったやつのものになるんだろうか。

いや、たとえそうなっても全くおれには関係ないし。
むしろそうなったらみょうじをいじるネタが増えるだけで、別にこれまでと変わりなく。

……変わりなく。

スマホをしまった槍バカに話しかける。

「……槍バカ、ランク戦しよーぜ」
「お? なんだよいきなり」
「今の時間だと、あんま人いねーだろ。ぼこぼこにしてやるから来いよ」
「いーぜ。ケチョンケチョンにしてやんよ」
「古―よその表現」

一刻も早くこいつをぼこぼこにせねば、と変な勢いで、ブースまで走り出す。
槍バカもトリガーを起動しておれの後ろを追いはじめる。

いやもう、嘘だ。

あの笑顔が、おれ以外に向けられたら嫌だとか、束縛したがる彼女みたいなことを思ったなんて、嘘だ。


ああちくしょう、みょうじのあの画像、おれも欲しい。



そのころ花屋では

「あれ? ねえなまえ、今日出水くん来ないの?」
「別に約束してるわけじゃないよ。ボーダーだし忙しいんじゃないの」
「ふーん……残念。映画の感想聞きたかったのになあ」
「…………」

prev next
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -