接触禁止令


あまりのことに叫び声も出せず、引っ張られるまま、資料室の中に引きずり込まれた。

腕の主がそこでようやく明らかになり、目を見開いた。

「き、くちはら!?」
「…………」

不機嫌さを隠そうともしない表情のまま、菊地原は俺を力任せに引っ張ると、ファイルの入った棚の前に放り投げた。尻もちをついて唖然とする俺を見下ろしながら、扉をきっちり閉め、ご丁寧に鍵まで。

退路を断たれたというか、そもそも接触禁止令は一体どうしたのというか。

座ったまま後ろにじりじりと下がる俺を、ゴミを見る目で一瞥すると、俺の手があるところを思い切り踏み抜いた。
一気に血の気が引く。これ、本気でキレてるやつだ。

「……す、すいません、でした?」
「は?」
「あ、え、えーと……」

まずい。

何が菊地原の気に障ったのか、全く心当たりがない。

冷や汗を流す俺をよそに、菊地原は俺の腹の上に腰を下ろし、じっとりと俺を睨んだ。

今ならキスできるかなできるよなしちゃおうかな、と菊地原不足の頭が考える。手が伸びかけたところで、薄い唇が開いた。

「みょうじさあ」
「はい!」
「……なんでぼくのところ来ないの」
「えっ?」

俺の隊服をぎゅっと握りしめ、菊地原が目を伏せる。
心臓にどすどすと矢が刺さっていく気がした。長らく彼に会っていなかった俺には刺激が強すぎた。

「え、えっと」
「ぼくがいないのに、楽しそうになんかしないでよ」
「あ、えお、う、」
「……聞いてんの?」

聞いてます。
聞いているからこうしてテンパっているのです。

なんというか、つまりあれか。自分で禁止令出しておきながら、俺と同じように寂しくなって、そんな時に俺が(傍目には)楽しそうにしているからイラついたと、そういうことか。可愛すぎませんか菊地原さん。

トリガーをオフにして、換装体を解く。
きょとんとした菊地原の薄い肩を引き寄せて、小さな唇を奪う。抵抗されるかと思ったが、逆に首に腕を回された。

触れ合わせるだけではすぐに物足りなくなって、そっと舌を伸ばすと、菊地原は少しだけ口を開いて待っていてくれた。なんだかんだと彼は俺に甘い。
古い資料ばかりで、滅多に人が来ない静かな資料室に、小さく水音が響く。久しぶりのキスを堪能して口を離すと、顔を赤らめた菊地原と目が合った。

「……寂しかったんだ?」
「……うん」

こてん、と俺の胸に頭を落として、抱き付いてくる菊地原。

さらさらの髪を撫でてやりながら、この二週間我慢した甲斐があったと内心でガッツポーズした。

そんなことをしていて、そういえばそろそろ訓練室に行かなければならなかったことを思いだした。

「ごめん、菊地原。俺この後合同訓練の、」
「それとぼくと、どっちが大事なの」
「菊地原」

考えるまでもなく即答した。

……が、あの目の下にクマを浮かべた東さんの頼みを断れるほど、俺は非道ではない。

後ろ髪を引かれるどころか頭髪全部引っ張られるレベルだけど、とりあえずそれを菊地原に説明すると、不満げながらも納得してくれた。

ようやく立ちあがって資料室を出ようとしたとき、菊地原は少しだけ背伸びして、俺の耳元に口をよせた。

「終わったら、ぼくの家来て」

今日、親いないから。

「……うん」

菊地原は俺を殺す気なのだろうか。

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