□天邪鬼の本音?
口は悪いし態度も悪いけど、みょうじは案外いいヤツなんじゃねえの、と思い始めた。
嫌いだ嫌いだとおれに言う割に、学校では他の奴とほとんど差もなく接する。
たまに見えないように睨んできたり(おれが調子に乗ったとき限定で)するけど、それだけだ。教科書で指を切って、血がとまらなくなったら、どこからか絆創膏まで取り出しておれにくれたし。
「なー、槍バカ。お前みょうじのことどう思う」
「みょうじ? なんだよいきなり」
昼食を槍バカと一緒に摂っていたとき、ふとそんなことを聞いてみた。
ブリックパックのストローから口を離し、しばらく考え込む。やがて首をかしげながら、槍バカはみょうじの印象を口にした。
「普通にいいヤツじゃん? あんま話さねーけど、なんかで班組んだ時に超いいヤツだったってのは覚えてる」
「どんな感じに?」
「おれが任務で来なかった分みょうじがやっといてくれたり、わかんねーとこ丁寧に説明してくれたりとか。まあ普通にいいヤツっていう」
「ふーん」
「てか、急にどしたん? 弾バカみょうじと仲良かったっけ?」
「別に。てか誰がバカだ槍バカ」
聞いても、だよなあ、と言う感じ。
実際花屋に行かなければ、おれにあんな辛辣に当たってくることはない。
だから向こうに行かないようにすれば、あのみょうじは夢だったと思うこともできる、けど。
「…………」
「とうとう無視かコラ」
トラックから助けてくれた時の優しさはどこへやら、みょうじはこちらを完全に無視して店の前を掃いている。
ちょっと考えて竹ぼうきの先を踏んでみたら、心底鬱陶しそうな顔をおれに向けた。
鼻で笑ってやるとびきりとこめかみに血管が浮く。
「……でみずくん、あしじゃまだからどけようか」
「誰だよでみず。出水だっつの」
「どっちでもいいよ。邪魔だからとっとと足どけろクソが」
「あーはいはい」
足をどけてやると、みょうじはイラついたように再び掃除を開始した。
ある程度集まったのを見て、おれは塵取りをうずたかく積まれたごみの前に置く。少し固まってから、彼は意外にもその中へごみを入れた。
そばにあった手ぼうきも渡してやると、それを奪うようにひったくり、ざかざかと細かくなった葉を入れる。
「みょうじってさ、いつもこの時間一人でやってんの?」
「……まあ。今の時間だと、あんまり人来ないし」
みょうじはぼそぼそとそんなことを言った。
手伝われたからか強く出られないようだ。
今は7時を少し過ぎたくらいで、確かに人通りは少なくなりつつある。前はお姉さんが帰ってきていたが、いつもは見ないのでどこかで仕事をしているのだろう。
「……出水こそ、学校終わって結構時間経ってるのに、なんで毎回タイミングよく来るわけ?」
「ああ、前来た時と時間合わせてんだよ。本部で色々やって時間つぶしてさ」
「は? 偶然じゃねえの?」
「偶然でそんな都合よくなるわけねーって。調整してんだよ」
笑いながらそれを告げると、顔をあげたみょうじが、珍しくぽけっと口を開けたままになっていた。イケメンのくせに随分な間抜け顔で、そんなに驚くことかと、逆に俺が驚く。
まっすぐ家に帰るのならここは通らないが、商店街側だとみょうじの家をちょうど通る。だから最近はこっちの道ばかり通っていた。
特にこれといった用件もないのだが、学校での「やさしい」みょうじを見た後だと、どうしても辛辣なみょうじも見ないと落ち着かなくなってしまったのだ。
それを伝えてみたら、やはりぽかんと口を開けたまま動かない。
しかししばらくしてみょうじは口を閉じると、おれにゴミ袋を指さし、塵取りの中身を捨てるよう指示した。
「……そんなに俺に罵られたいのか……」
ぼそりと、聞き捨てならない言葉が背中で聞こえる。
「はあ!? なんでそうなんだよ!」
「だって、普通こんな口悪い奴に会いに来るとか頭おかしいだろ」
「お前人のこと言うのも大概に、」
さすがに言われ続けたらイラつきもして、肩越しに後ろを振り向きながら噛みつく。
だが、みょうじの顔を見て、途中で言葉を止めた。
道路側を向いていた彼の顔は、おれからだと横顔しか見えない。
だけど、その口もとが、わずかに笑っているのが見えた。
どことなく嬉しそうにも感じる。
「…………」
「何。ゴミ捨てたなら塵取り元のとこ戻せ」
「あー、おう」
言われるままに、塵取りを元に戻す。
ただの想像で、根拠はないけど。
おれが来なかったら、みょうじはもしかして、少し寂しがったりしているのだろうか。
じゃなきゃ会いに来てるんだと言われて、嬉しそうな顔をするわけがない。
嫌いだと言いつつも、来たらなんだかんだ相手をしてくれているところとか。
案外いいヤツ、っていうか。
ただ単に、言動が天邪鬼なだけなんじゃねえの、と思い始めた。
シャコバサボテン:ひねくれ者
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