6.長い付き合いになりそうだ


昨日の記憶がない。

確か、東さんから食事に誘われたので、太刀川とみょうじに引きずられながら本部に行った。酒は飲めない、未成年だと主張したのに、太刀川がまず飲んで、みょうじがしれっと続けて飲んで。
俺は飲まないつもりでいたのに、太刀川がふざけて俺の飲み物を酒にすり替え、気づかずに飲んでしまって。


「…………」
「水は飲めそうかしら」
「……はあ」
「じゃあ持ってくるわ」

なぜか、見知らぬベッドに寝て、見知らぬ女に水を持って来られるという奇妙な状況に陥っている。

彼女が出て行った後で、体を起こしてあたりを見回す。
まったく見覚えのない部屋だが、置いてある家具は男ものだ。女の部屋ではない。

ずきずきと痛む頭で、一体何が起こったのかと思い返してみる。だがまるで思い出せず、もしや本当に間違いでも起こしたのだろうかと嫌な汗が伝った。
しかし、彼女の顔にどうも、見覚えがある気がする。

そうこうしていたら、ペットボトルの水と錠剤を手にした女性が部屋に戻ってきた。

「水持って来たわよ」
「……どうも」
「若気の至りってやつね。そんなに飲んじゃダメよ」

あなたはあんまり強くないみたいねと、つまらなさそうに女性が言う。
大人しく錠剤を飲みながら、確かに見覚えのある顔を思い出そうと躍起になった。

その時、階下から、聞きなれた声が響く。

「なあ、ここに置いといた薬はー?」

みょうじの声だ。
女性はドアの近くまで行き、声にこたえる。

「なまえのお友達のところよー」
「はあー!?」

なまえと呼んでいる。ということは、みょうじの知り合いなのか。
そこでようやく、最近彼女の写真を見たことを思いだした。

画像修正ソフトを使ったのかと、見た時にそう考えたことも。

「……みょうじの……母親……?」
「あら、ご存じなの。ええと二宮くん、だったかしら」

大して驚いた様子もなく、みょうじの母親はすとんと俺の隣に腰を下ろした。
二人分の体重にベッドが軋む。近くなった顔を思わずまじまじと見てしまった。

肌は白く、シミひとつない。目元にも口許にも、年齢を感じさせるものはない。唯一それらしいものと言えば、首に浮いた血管だが、みょうじとその兄を生んだとして、もうすでに50は過ぎているはずだ。
とてもそんな年齢には見えない。

30と言っても通じるようなその顔を眺めていると、どかどかと大きな足音を立てながら、みょうじが部屋に入ってきた。そうか、ここはあいつの部屋か。

「おい母ちゃん、友達にちょっかいかけんな」
「ちょっかいなんかかけてないわ。いい男がいたから、寝顔を堪能させてもらっただけよ」
「それがちょっかいって言うんだけど。つーか発言がぎりぎりなんだよ」

珍しくいらついた顔をしているみょうじが、母親の腕をつかんで立たせる。
彼女はむっすりとした顔をしながら立ち上がり、はたと気が付いたようにみょうじに話しかけた。

「そういえばなまえ、あんた編集さんに連絡しないとって言ってたけど、いいの?」
「ん? ……今日何日?」
「20日」
「あっ」

みょうじはぽんと手を叩くと、母親を置いて再び部屋から出て行った。
また二人だけにされ、彼女は再び俺の隣に座った。そしてまじまじと俺を顔を見つめる。
さきほど自分がやったこととはいえ、少し気まずい。

「……何か?」
「なまえって友達いたんだ、と思って」
「失礼ですが、母親ですよね?」

自分の息子になんて言い草だろうか。

しかし俺の言葉などどこ吹く風で、みょうじの母親はしみじみと話し出した。

「あの子、あの性格でしょう? 小学生のときなんか、イジメに遭ったりしてね。あれはあれで個性だと思うけど、大丈夫かしらって、夫とよく話してたわ」
「……」

若干大丈夫ではない部分もあるものの、考えてみればなんだかんだと、大学ではいつもみょうじの近くには人がいる。太刀川だったり堤だったり、加古だったり。
ボーダーでもC級の指導をすることが多いから、白い隊服に囲まれているのを見かける。

そういえば先ほど、「友達に」と言っていた。
その言葉を自然に感じるくらいには、俺もみょうじのそばにいたということか。みょうじもまた、母親にそう言うくらいには。

「ちょっと人からズレてるかもしれないけど、根はいい子よ。よければこれからも仲良くしてあげてね」

母親らしい表情でそう言われ、軽く肩を叩かれた。
だから俺も、軽く笑って答えた。

「言われずとも、そのつもりです」


「おい今日19じゃねえか。何ウソこいてんだババア」
「お前意外と口悪いな」
「いやよねえ、こういうところばっかり私に似ちゃって」
「(あの兄からの口調じゃないのか……?)」

End.

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