天邪鬼はひどい


「嫌いだって言っても、別にただの逆恨みだから。出水がどうにかできることじゃないし、気にしなくていいよ」

そう続けるみょうじにつられ、そんなものかと納得して、昨日は帰ったのだが。

いや逆恨みってなんでだよ。
どうにかできることじゃないってなんだよ。
気にしなくていいって気になるわ。

考えれば考えるほど気になって、でも学校で聞く勇気はなく(いつも周りにいろんな奴がいるから、二人だけで話すなんて無理だ)、おれは昨日と同じくらいの時間になるまで、本部で模擬戦をして過ごした。
大分日が暮れてから、あの花屋に向かってみた。

そっと陰から伺うと、竹ぼうきで店の前の掃き掃除をしているみょうじが見えた。

買い物途中らしい女性に話しかけられ、笑顔で受け答えている。彼女は買いはしないらしく、そのまま歩き去って行ったが、遠くからでもわかるくらい頬が赤い。

「……イケメンってずりい」

結婚式場だの家元だのと契約していると言っていたが、店先に彼を立たせておけば安定した売り上げが望めるのではないかと思う。

誰もいなくなったのを確認し、そっと近寄る。
あと少し、というところで、みょうじの顔がこちらを向いた。思わず足を止める。

「あれ、出水。今日も任務帰り?」
「えっ!? あ、お、おう……任務っつーか、えーと……」

名前を呼ばれて、どきりと心臓が跳ねる。
模擬戦、と言って通じるだろうか。彼はボーダーではないのだし。

答えあぐねているおれを見て、みょうじは不思議そうに首をひねると、再び掃除をはじめた。

「まあ、それはいいけど。昨日嫌いって言われて、またよく来る気になるね?」
「あ、は、ははは……。まあ、えーと……理由が……気になったというか……。気にすんなって言われたけど……」
「へー、それだけ? 目障りだよね」

今日晴れだね、程度の軽さでとんでもないことを言われ、これが学校の彼と同一人物なのかと怪しさすら感じる。
目障りって。

みょうじは竹ぼうきを茫然としているおれに持たせると、バケツの横に置いてあった塵取りを手にとった。

掃き集められた落ち葉やらの前に塵取りを置き、おれの方を顎でしゃくる。
めちゃくちゃ腹立つ。

だけど、そこをぐっとこらえて、大人しくその塵取りの中にごみを入れた。
イラついたせいか、あちこちに落ち葉が散った。

「へたくそ」
「…………」

誰のせいだ。

大体入れ終わったところで、みょうじは小さな手ぼうきではみ出た落ち葉を手早く塵取りの中に入れ、ごみ袋の中へ。
それから花をあちこちのバケツから少しずつ取り、今度は花束を作っているらしい。
くるくるとよく働くやつだ。

しばらくして、大体の花を決めたところで、ようやくおれのほうを見た。

「ああ、出水のことが嫌いな理由だっけ」
「おまっ……忘れんなよ!」
「だってどうでもいいだろー。理由知ったってどうにもなんないよ。俺どうやったって出水のこと嫌い以上にできそうにないし」
「そのレベルで嫌われてんのか、おれ……」
「だから逆恨みなんだって」

白くて小さな花がたくさんついたのと、大きなオレンジの花がついたのとを組み合わせ、そこに少しだけピンクの花が入って。
どれが何の花かなんておれにはさっぱりわからないけど、きれいな花だな、と思った。

「つーか自分が嫌われてる理由知りたいとか、頭沸いてんの?」

笑顔すらなくなったみょうじの顔が、もはや怖い。ゴミを見る目というか、冷徹な視線に心が折れそうだ。
美人がキレると怖いという話は本当だったようだ。

「……みょうじ、学校と180度違うのな……」
「嫌いな奴に見せる笑顔はないよ。……ああ、そういえば学校で言いふらしたりしなかったよな。じゃあそれに免じて、理由教えてあげるよ」

作った花束をオレンジの紙でまいて、その上からビニールの覆いをつけ、テープでくるっと根元を止めて。
小さなバケツに小さな花束を入れて、みょうじは学校では見せない、嘲笑のような笑みを浮かべて理由を言った。

「出水、ボーダーじゃん。だから嫌い」

オレンジのガーベラ:あなたは私の輝く太陽

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