ダメ男と優等生


「たまーにあるんだよね。契約してやるからあれしろこれしろって。営業の辛いところですわ」
「…………オイそれ」
「行かない行かない。めんどくさいもん。唐沢さんがどうしても行けって言うなら行くけど、俺には哲ちゃんいるしね」

メール送ってきた相手は、人生の曲がり角にさしかかった女性。
見た目はそこそこ綺麗だったけど、思いっきりこちらを見下しているようで、感じ悪かったんだよな。

哲次は俺の言葉に安心したのか、再びフォークを取って食事をつづけた。
表情には出さないようにと努めているようだが、時折ひくりと口の端が持ち上がっている。
にやにやしながらそれを見つめていると、それに気づいた哲次が、むくれながら俺を睨んだ。

「なんだよ、ニヤニヤして。気持ち悪い」
「ひどい。哲ちゃん可愛いなって思ってるだけなのに」
「はあ……。みょうじさんに付き合ってると疲れる。俺、そろそろ学校行くわ」
「はいはい。今日また泊まるの?」
「明日朝から任務だから、今日は来ねえ。……メールの送り主と、メシ行って来れば?」
「おやまぁ」

いつの間にか食べ終えていたらしい哲次が、小生意気なことを言いながら、皿を流しに置く。水で軽く流し、彼はすたすたと洗面所へ向かった。
俺も残りを食べて、自分の分と哲次の分の皿をさっと洗う。
メールは当たり障りなく、業務用のアドレスを私用で使うのはおやめくださいとだけ送った。
これでよし。

パソコンを閉じると、ちょうどよく哲次がドアから顔を出した。

「みょうじさん、俺もう行くから」
「はーい。いってらっしゃい」

俺の目の前にあるパソコンを見て、哲次は少しだけ、表情を曇らせた。

「……行くのか? それ」
「哲ちゃんのお許し出たしねえ。どうしようかな」

意地悪いと思いつつも、そんなことを言う。哲次は予想通り、ぐっと唇を噛んだ。

「行ってほしい?」

重ねて聞くと、哲次がうつむいて、蚊の鳴くような細い声をあげた。

「……行かないでほしい」
「ん?」

「行くな」

今度は、少しはっきりした声。

にやにや笑いが抑えられないので、片手で口を押える。哲次は気が付いていない。パソコンの置いてある場所から哲次の前に移動し、顔をあげさせた。

そこでようやく俺の表情に気づき、哲次が顔を赤くする。そんな顔で睨まれても怖くもなんともない。

「先ほどお断りのメール出しましたー。あはは、哲次かわいい」
「あんたっ……からかったなこの!」
「いでっ! もー、哲次すぐ手出るのよくないよ。あ、時間いいの?」
「は!? うわ、やべっ」

俺の手をのけて、哲次があわただしく玄関に向かう。それをのんびりと追いかけ、革靴を履く様子を壁によりかかって眺める。
襟が少しめくれていたので片手を伸ばして直してやると、哲次はぱっとこちらを振り向いた。

「? 哲ちゃ、」

呼びかけた声を遮って、哲次が俺の手を引く。
腰をかがめさせると、唇の端に音を立ててキスをした。

俺が目を見開いていると、してやったりの表情をして、さっさと立ち上がる。

「行ってきます」

ドアが開いて哲次の体が消え、少ししてから階段を降りていくような足音が響いた。
反則だ、とつぶやいて、俺はその場にずるずると座り込んだ。

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