ダメ男と優等生


うとうととまどろんでいた意識が、ふと覚醒した。

寝起きの目を容赦なく刺してくる光が鬱陶しい。
枕に顔をうずめて回避しようとしたが、枕がない。そこでようやく、隣に寝ていた人物がいないことに気が付いた。

「……哲ちゃんがいない……」

呟きながら、そこら辺を叩いて哲ちゃん、もとい哲次の痕跡を探す。
隣はもう冷たくて、ずいぶん前から哲次がいないことを示していた。

仕方なく起き上がり、床に足を下ろす。寝間着にしているジャージがめくれていたのでのそのそと直し、あくびしながら、顔を洗いに洗面所へ向かった。

顔を冷水で洗う勇気がなかったので、ぬるま湯で洗う。
鏡を見ると、髪は好き勝手に跳ねていて、寝ぐせ直しじゃ直りそうにない。もう少ししたら、シャワーでも浴びよう。

だいぶ頭は冴えたが、まだ眠い。
再びあくびをもらしながら今度は台所へ向かう。

近づくにつれて、なにやらごそごそと動き回る気配がする。頭だけのぞかせて伺うと、哲次が忙しそうに朝食の用意をしていた。
さすが哲次、制服にはしわ一つなく、短くそろえられた髪もきちんと整えられている。

後ろからこっそり近寄り、同じシャンプーの匂いがする哲次に抱き付いた。びくう、と筋肉質な体が跳ねる。

「哲ちゃん、おはよ」
「……みょうじさん、今起きたのか? 仕事は」
「ないよ。今日はお休み。残業しまくったもん」

手触りのいい髪を撫でてそう言うと、あんたがへらへらしてるからだろ、と辛辣なお言葉が返ってきた。
これでも、それなりのポジションを任せてもらってるんだけどな。

ちなみに俺の職業は、ボーダーの事務職である。唐沢さんの後ろをついて回ったり、唐沢さんに代わってスポンサー契約のお願いに行ったり、唐沢さんの運転手を務めたり。

その関連で哲次と出会い、こうして朝食を作ってもらったり、同じ匂いをさせたりする関係になったのだが。

「だったら、たまには部屋の掃除でもすりゃいいんじゃないのか? 冷蔵庫の中身とか、腐ってるやつあったぞ」
「あー……うん、まあ、そのうち。とりあえず今日は休みだからゆっくりする」
「あんたそう言って、前も片づけてなかったじゃねーか……」
「あ、あははは……」

邪魔、と哲次が鬱陶しそうに俺を払いのける。

素直に腕を放して、棚の上に置いてあるノートパソコンを開いた。
休みとはいえ、上司が出勤しろと言えば出なくてはならないし、スポンサー様からメールが来ていたら返信しなくてはいけない。
メールを確認すると、スポンサーから数通来ていた。

そのうち一通の内容を見て、顔をしかめる。

「あー……やだなあ……」
「どうかしたのか? 飯できたから座れよ」
「あ、うん。ありがと哲ちゃん」
「その呼び方やめろよな」
「いいじゃん。可愛いでしょ、哲ちゃん」
「俺に可愛さ求めんな」

不満げな哲次の頭を撫でて、向かいの椅子に座る。
おいしそうなオムレツとサラダ、トースト。腐った食材の跋扈する冷蔵庫を探り、作ってくれたのだろう。ありがたいを通り越して申し訳ない気がしてきた。

手を合わせてからトーストをかじると、じっとこちらを見つめていた哲次が、ふと尋ねて来た。

「さっきのメール、なんだったんだ?」
「ん? あぁ、新しく契約してくれたスポンサーさんから」
「なんて?」
「いや、食事でもどうですかって。なんだっけ、ホテルなんたらってとこで」

「……は?」

かしゃんと音を立てて、哲次のフォークが皿に落ちる。
切れ長の目がこれでもかと見開かれていた。

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