馬鹿ですが愛されています


ある日の放課後。

今日も先生がうざかっただの、日差しがまぶしいのが嫌だのと文句タラタラの菊地原を拾って、二人で俺の家に向かっていた。
もっともだと思うようなことから、それは言いがかりだろうと思うことまで、菊地原のボヤキは尽きない。

それをハイハイと聞き流しながら、横断歩道の前に立った。

「大体さあ、アイツおかしいよ。中学でやるような範囲をまた高1でやるって、効率悪すぎ。できないヤツは復習してないだけなんだから、さっさと先進めばいいのに」
「まあ、中学違うと進むレベルも違ったりするからな。あ、コンビニ寄っていい?」
「いいけど、うるさいしぼく入らないよ。みょうじ代わりに買って来て」
「んー」

それにさあ、と再び続くボヤキを聞く。
しかし、しばらくして不意に、菊地原が口をつぐんだ。不審に思ってそちらを向くと、彼は何やら顔をしかめて、あたりをきょろきょろと見回していた。

信号が変わったのかとそちらも見てみたが、まだ赤いままだ。車用の信号は黄色いけれど。

「どうした?」
「なんか、変な音がする」
「音ぉ?」

菊地原はサイドエフェクトとかいう能力?のおかげで、普通よりも聴力が高いらしい。俺も耳を澄ませてみたが、車が行きかう音と、隣の親子連れが話している声しか聞こえない。

疑うわけではないけれど、これだけたくさん音があるのなら、聞き間違えても無理はないのではないか。

「気のせいじゃねーの?」
「馬鹿にしないでよ。聞き分けなら得意なんだから」
「じゃあなんの音?」
「なんていうか……いびき?」
「いびき?」

車のあるところでいびきだなんて、なんて不穏な。
もし本当なら大惨事だと思いつつ、ふと信号を見たら、ようやく黄色から赤に変わったところだった。
走っていた車が止まり、しばらくして、歩行者用の信号も青に変わる。

それを見て、子供が母親の手をぱっと放し、駆け出していった。
途端、車線の間から、蛇行運転の車が飛び出す。

運転席に人の姿がない。いびきって、マジで居眠り運転か何かかよ。

「いやあああああああ!」

気づいた母親が叫び、子供を追いかけて駆け出そうとした。
後ろにいた男がそれを羽交い絞めして引き留める。

車はぐねぐねしながら子供に近づき、子供は車に気が付いて身がすくんだのか、その場に立ち尽くしてしまった。あたりから悲鳴が上がり始める。

俺は荷物を放り投げ、走り出した。

「みょうじ!?」

菊地原の珍しく焦った声が聞こえたが、構わず足を動かす。
車は近い、子供は遠い。

俺は運動部じゃないし体育の成績は普通だ。このまま普通に走っていたら、間違いなく間に合わない。車はもうすぐそこだ。

一か八か、地面を思い切り蹴って、俺は子供に向かって突っ込んだ。

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