制服とネクタイと


「なあ、なら代わりにネクタイつけてくんない? これならいけるだろ」
「つけたらいいじゃん」
「いや、俺ネクタイやったことない」
「ネクタイくらい常識でしょ……ありえない」

再び文句を言いながらも、菊地原はネクタイを受け取ってくれた。
学ランの袖を少し折り返してから、菊地原の手が俺のシャツの襟を立てた。

わずかな衣擦れの音を立てながら、ネクタイが首に回る。
てきぱきと手が動いて、あっという間によく見るネクタイの結び目ができあがった。

「すげえ、プロの技だ」
「このくらいみんなできるよ。いつもは輪っかのままにしてるけど」
「へー。やっぱ面倒だもんな」

シャツの襟を戻すと、いつになくきちっとした自分の姿が見える。
とはいってもシャツはよれよれだけど。
似合う?と菊地原に聞いたら、リストラされたサラリーマン、と辛辣な答えが返ってきた。

サラリーマンと言えば、頭にネクタイを巻くあれかな。

どうやって緩めるんだろう、と結び目をぐいぐい引っ張っていたら、ふと菊地原の姿が目にとまる。
学ランは菊地原の腰まで届いている。164pと小柄なせいか、まるでワンピースのように見えた。

下を脱いだら、ぎりぎり隠れるか隠れないか、というところか。

「…………」
「? ちょっと、みょうじ。何黙ってんの」

結び目を下に引き、ゆるめたネクタイの輪っかを首から外す。

訝し気な顔の菊地原の腕をつかんで引き倒し、その上にのしかかった。
俺の突然の行動に、菊地原は一瞬ぽかんとしていたが、すぐに我に返ると、足をじたばたさせて暴れた。

「ちょ、やだ、何する、」
「まあまあ」
「まあまあって何、意味わかんない! やめっ、」
「まあまあ」

ひとまとめにした菊地原の腕を、ネクタイで縛る。
輪っかを絞めるだけでいいから簡単でいい。

上からじっと困惑しきった顔を見つめていたら、やがて意図を察したのか、菊地原はあきらめたように抵抗するのをやめた。
もぞもぞと居心地悪そうに視線をそらし、小さな声でいつもより格段に殺傷力がない悪態をつく。

「……最悪。バカ。死ね」
「ひどい。……なんか今気づいたことがある」
「死ぬほど興味ない」
「まあ聞けよ。俺、抵抗できなくしたヤツに色々するのが好きなんだなって思った」

ネクタイって最高だな。

しみじみ言うと、顔を赤くした菊地原が、もう一度、死ね、とつぶやいた。

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