制服とネクタイと


漫画の新刊が読みたい、と菊地原が言うので、学校帰りに待ち合わせて、彼を俺の家に招いた。
座椅子に座ってさっそく読み始める菊地原を、寝そべってゲームをしながら眺めていたら、ふと思った。

「そういえば、進学校ってブレザーなんだな」
「はあ? 何今更」

菊地原が呆れた声を出す。
言われた通り、すさまじく今更である。

俺の通う学校は学ランで、古き良き黒い詰襟に黒いズボン。対する菊地原の通う進学校は、スタイリッシュなブレザーとスラックス。いかにも品のよさそうな制服だ。
これを荒船先輩が着るとどうも、うん、不良っぽくなるけど。

「なーなー、ちょっと交換してみよう」
「ムリだし嫌だ。みょうじの制服とか汗臭そうだしなおさらイヤだ」
「泣くぞ。何お前仮にも彼氏に」
「ていうか、そもそも丈足りないし、サイズ全然違うし。みょうじがぼくの着たら絶対破けるし。そしたら弁償してくれるの?」
「いや、破けるまで頑張らないよ! やばそうだと思ったらやめるよ!」

菊地原は俺をなんだと思っているのだろうか。

まあ確かにサイズは全然違う。俺はそこそこタッパはあるほうだが、菊地原は小柄だし、さほど筋肉もない。サイズで言うなら、歌川のほうがちょうどいいのだろうか。

ぶうぶう言っている菊地原の鼻を、手を伸ばしてつまむ。特に意味はない。

「わかったって。今度歌川に借りる」
「……なんでそこで歌川が出てくるわけ?」
「え、だってサイズ的にちょうどよさそうだし。古寺も小さいしなー」
「…………」

鼻をつまんでいた俺の手を振り払うと、菊地原は漫画を置き、立ち上がった。

帰るのかと俺も起き上がると、予想に反し、菊地原は豪快に上着を脱ぎ棄て、俺の顔に投げつけた。うぐふ、と間抜けな声が出る。

「てか、何、いきなり」
「着たいって行ったのみょうじでしょ。ほらネクタイ」
「あうちっ!」

今度は目にクリーンヒット。痛い。

何が菊地原をそうさせたのか知らないが、どうやら制服は貸してもらえるようだ。
お返しにと俺も学ランを手渡すと、汗臭いとか色あせてるとか、ぐちぐち言いながらも菊地原は腕を通した。

俺もさっそくブレザーを着てみようとしたが、二の腕まで入れたら嫌な音がしたので、そっと脱いだ。
これはもう頑張っちゃいけない。お前はよくやったよ。

「てか菊地原、学ランブッカブカだな! お前ちゃんと食ってる?」
「人並みに食べてるよ。みょうじが無駄にでかいんでしょ。独活の大木って言葉知ってる?」
「ああ、超育つけど中身は空っぽっていう、オイコラ」
「ていうか、せっかく貸してあげたのになんで着てないの」
「ああ、やっぱヤバそうだったから」

返す、と渡したら、菊地原はブレザーを雑に畳んで、ベッドの上に置いた。
あれ、着替えないのか。俺の学ラン着たままだし。

しかし、中学も俺は学ランだったから(高校の制服は中学のを流用している)、ブレザーには少し憧れていたのだが。
残念に思いつつ、落ちたままだったネクタイを手に取る。そしてはたと気が付いた。

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