顔、赤くない?


「ごめんね、みょうじくん。いきなり手伝い頼んだりして」

会議机の端で、資料作りのためにぱちぱちとノートパソコンを叩いているみょうじくんに謝る。

忍田本部長補佐とはいえ、あくまで重役たちの間では下の私は、会議の資料作りや細かな雑用なども引き受けることが多かった。
しかし、ここ最近の多忙によって、翌日の会議資料を作り忘れるという大失態を犯し、さきほどまで本部長や城戸司令に平謝りしていた。そこへちょうど報告に来ていたみょうじくんが、手伝いを申し出てくれたのだ。

彼は少し手を止め、にっこり笑って手を振った。気にしていない、の動作だ。
本人が気にしていなくても、こちらが気にしてしまう。まとめるのがうまいし、キーを打つのも早いから、こちらとしては大助かりなんだけども。

「ごめんね。今度何か埋め合わせするわ、何がいいかしら?」

再び手を振られる。
しかし、それではこちらの気が収まらない。

今回のことだけではなく、彼が迅くんの手綱を取り始めてから、女子隊員へのセクハラが格段に減ったのだ(完全に、とは言わないが)。

それも含め、いつかお礼をしなければと思っていた。

ただ普通に聞いたのでは言ってくれないだろうし、ここはからかい交じりに聞いてみようか。

「そうねー。迅くんと仲がいいみたいだし、水族館とか二人でデートしてきなさいよ」

からかい半分で軽く言う。
予想では、笑顔で手を振るか、それならこれがいいと希望を言うか。その二つだったのに、彼はその予想をまるきり裏切った。

ガタン、と席を立つ音。
驚いて顔を上げると、みょうじくんが机の向こうで立ち、私を見てぱくぱくと口を開け閉めしていた。
その顔色は、赤くなったり青くなったり。手をむやみやたらと動かして何かを伝えようとしているらしいが、いつになく慌てているのかさっぱりわからない。

「ちょ、ちょっとまって、落ち着いて! どうしたの!?」
「……、……!?」
「え、な、なに?」

みょうじくんは顔を真っ赤にしながらキーを打ち、こちらに画面を向けた。
そこには、ワード文書に大きなフォントサイズで『知ってるの!?』とだけ書いてある。

「知ってる……って、何が? 私はただ、仲がいいから一緒に息抜きでもって思って」
「…………」
「何か気に障ること言っちゃったかしら? 迅くんと一緒は嫌?」

そう聞くと、みょうじくんは首をゆるく横に振った。
顔の赤みは収まっていたけれど、耳はまだ真っ赤だ。大きく息を吐いてから、再びなにごとかを打ち、こちらに見せてくる。

『ちょっとびっくりしただけです。ごめんなさい』
「ううん、いいのよ。だけど驚いたわ。デートで反応するなんて、まるで付き合っ……」
「…………」
「……えっ」

顔を伏せたみょうじくんが、マシンガンもかくやという音を立ててパソコンのキーを叩いている。
顔が再び赤くなっていた。
どう反応していいのかわからない。デート、という言葉に反応するということは、まさか、あの二人は。

……えっと、こういうときは。

「……水族館のペアチケットでいい?」
「…………」

こくり、と真っ赤な顔が頷いた。


「……忍田本部長」
「ん? どうしたんだ、沢村くん」
「こういう時、どうやって応援したらいいんでしょう……」
「は?」


沢村さんは応援しつつそっとしておいてくれる大人の女性。

お題:確かに恋だった


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