□無意識のゼロセンチ
「ひっで! 冬島さんからも言ってくださいよ、戦闘員に転籍しろって」
「あー、まぁエンジニアも人手足りねーからな。訓練用トリガーとはいえ、この年でメンテナンスできるってのはかなり貴重だからな」
「へー。学校じゃ全然そんな感じねーのに」
冬島さんと出水の会話が、どこか遠い。
背中に感じる出水の体温と、耳元で喋る声と、首に回った腕と、出水の匂いと。
トリガーを持つ手が小刻みに震えて、顔がどんどん熱くなっていく。
多分外から見たら真っ赤になっているのだろうが、気づいていないのか出水は俺に乗ったまま動かない。
「みょうじ、学校じゃ寝てばっかなんすよ。こないだ先生にバレて、宿題増やされてんの」
「研究室でもよく寝てるからなあ。鬼怒田さんがブツブツ言いながら毛布かけてやってるよ」
「ぶはっ、マジで!」
「出水うるさい」
どくどくどく、鼓動がどんどん速くなっていく。
べったりくっつかれているから、出水にもバレてしまうかもしれない。その前に離れてほしいのに。
頭に血が集まっているせいか、徐々にくらくらしてくる。
うつむいて顔が見えないようにしていたら、ようやく冬島さんが俺の様子に気が付いた。
「どした、みょうじ。具合でも悪いのか?」
「あ? 何みょうじ、お前顔赤くね?」
「……、ちょっと、便所いってきます」
出水を払いのけ、小走りで研究室を出る。
顔が熱くて仕方がなかった。
思い切り走り出したいのを抑えて、俺は早歩きで、トイレへ向かった。
だから、知らなかったのだ。
「冬島さん、あいつの顔見ました? あんな真っ赤になっちゃって」
なんて、吹き出しながら言う出水も。
「あんまりみょうじからかうなよー。本当にあいつの腕は貴重なんだからな」
「わかってますって。とっととみょうじが落ちてくれりゃいいんですよ」
「はぁ……。あいつも厄介な奴に好かれたな。戦闘員だって、本気で誘うつもりはないんだろ?」
「当たり前っすよ。アイツが断ってれば、誘うって名目でずっと構えるんですから」
「マメなんだか、いやらしいんだかな」
冬島さんが、そんなことを言いながら、苦笑いしていたのも。
お題:確かに恋だった
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