無意識のゼロセンチ


ボーダーには、戦闘員だけではなく、一般職というものも存在する。

無論戦闘員ほど光の当たるポジションではないが、大切な職業だ。

その中でも、エンジニアの職は少し特殊である。
戦闘員でなくてもトリガーを扱うし、何よりメンテナンスの要。本部も、遠征艇だって、エンジニアなくしては存在しない。

光が当たらないけど、忙しさは戦闘員に勝るとも劣らない。それがエンジニアだ。

……とはいっても、俺はその下っ端なんだけど。


「おいみょうじ、アレ持ってきてくれ、アレ」
「アレでわかるワケないでしょ。はい」
「なんだかんだわかってるじゃねーか」

トリガーのメンテナンスに使う計測器を手渡すと、冬島さんは後ろ手で受け取り、ホルダーにつなげた。A級太刀川隊のものだ。

今は、遠征の事前準備として、トリガーの最終メンテナンスをしているところだった。

俺もトリガーのメンテは一応できるのだけど、遠征メンバーに選ばれた隊員たちのものだと、万が一のことが起きてはいけないのでベテランが念入りに検査する。
冬島さんも同行するとはいえ、機材が足りない状況で故障なんてシャレにならない。

俺はその隣で、たまに機材を渡したりしながら、黙々とC級のトリガーを見ていた。

「ちーっす、冬島さん」
「おう、出水」

聞きなれてしまった声に、どきりと心臓が高鳴る。

自動ドアを開けて入ってきたのは、太刀川隊シューター、出水公平。今冬島さんがメンテナンスしているのが彼のものである。

「メンテどーっすか。結構ホルダー痛んでたんで」
「中身はそこまで痛んでねえよ。ただ若干数値が狂ってるから、そこの調整だな」
「そうですか。んじゃ、よろしくお願いします。……よう、みょうじ」

無言でメンテナンスを続けていた俺の背中に、出水がのしかかる。握っていたトリガーホルダーが軋んだ。
すまんC級の誰か。

「お前まだエンジニアなのかよ。戦闘員やろうぜ」
「邪魔。重い。どけ」

とっさに口をついて出たのは、そんな言葉だった。
しかし出水は気を悪くした様子もなく、俺の首に腕を回して、けらけら笑う。
吐息が耳にかかって、思わず肩が揺れた。

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