結論からいうなら圧倒だった。
いや本当に。なんか無駄に心配して、厚かましく応援とかしたのが恥ずかしいくらい

幸村くんのテニスを見たのは初めてなんだけど、どうやら人の五感を奪えるらしい。本当に人間なのか問いかけたくなったけど立海の皆さんにとっては常識っぽい。

え、立海超人。



「どうだった?」

『…いや、想像以上』

「そりゃ初めはびびるよねー!」


私なんかはもう慣れちゃったけど、と言いながら柳くんに手を振る美紗緒。

…慣れって怖い。
ていうか慣れるものなんだねアレ。


『とりあえずテニスが凄いことが分かった』

もちろん色んな意味で。


「そうだねー、テニスは凄いけど幸村が凄いよ本当に」

『なんで?皆五感奪えるんでしょ?』

「奪えるか!」


ゴツンとグーパンされた。ちょっと、痛いんだけど!


「みんな五感奪えたら人間じゃないよ!」

『否定はしないけど、幸村くんは人間だよ』

「幸村は人間じゃないからいいの」

「誰が人間じゃないって?」

『あ、幸村くん』

「ゆ、ゆきむ、いだだだだだだ!」


美紗緒のこめかみをぐりぐりしながら表れた幸村くんは、試合が終わった後だって言うのに、汗ひとつかいてない

でもこめかみぐりぐりは本気で痛そう



「ちょ!離してって、幸村の悪魔!」

「…ふーん」

「!いだだだだだだだだ!」


馬鹿だろ。
なんでそこで調子に乗るのかが謎い。
でもまあ仕方ないか、


『幸村くん、美紗緒も反省してると思うしそれくらいに…』

「…成瀬さんがいうなら」


幸村くんは、はあとため息をついて美紗緒から手を離した。


「成瀬さんに感謝しなよね」

「悠里にはするけど、幸村には謝らない!」

「へえ」

『…美紗緒』

「や、柳さああああん!」

「あ、」


幸村くんが捕まえる前に美紗緒は柳くんの所に駆け出した。本当に学習しないなあ。でもまあそこが美紗緒の良いところだと思う。



て、いうか…
これは二人きりってやつだろうか。
やばい、なんか緊張する。


そりゃあ試合前も二人きりになったけど、あれはただひたすら夢中だった。
朝だって二人だったけどあれは突然だったし…。


なにより、あの試合を見た後で緊張しないわけがない!


いやだって本当に凄かったし!
なんか幸村くんだったし!


「…成瀬さん?」

『へ!?』


幸村くんの声にはっとすると、私の顔の前でおーい!と手を上下に振っている幸村くん。


「ぼーっとしてたけど大丈夫?しんどいなら日陰に行こうか?あ、部室でもいいよ」

『だ、大丈夫!』

「…ほんとに?」


どうやら本当に心配してくれたらしい。
大丈夫だと言っても、なかなか信じてくれない。


『本当に大丈夫!ただ、テニスしてる幸村くんがカッコよくて、緊張しちゃっただけだから!』


だから本当に大丈夫だよと笑って見せれば、幸村くんはそう、と顔を反らしてしまった。


あれ、私何かまずいことでも言った?





………言ったあああああああああ!


『いいいいや!いや!違うの!さっきのは言うつもりじゃなくて!つい本音が出たっていうか!』

「う、ん。ありがとう」


相変わらず顔を反らした幸村くんの耳が赤くなる。…え?


『…うわあああああああ!ち、違うの!本音とか!うわあ!もう!』


墓穴しか掘ってない…!
恥ずかしすぎて思わずしゃがみこんでしまった。もう顔あげらんない!



「…成瀬さん?」


突然静かになったからか、幸村くんが私の方に近づく音がした。


「ねえ、顔あげて?」

『…無理』

「無理じゃないでしょ?」

『穴があったら入って一生出たくない』

「あはは、面白いね」


何も面白くない。笑う所がないでしょう!
いやもう冗談じゃなくて。


「でも、それじゃ俺が嫌だな」



「成瀬さんが穴なんかに入って、会えなくなったら悲しいよ」

『え』


びっくりして思わず顔をあげると、幸村くんのとびきりの笑顔が待っていた。

だ、から駄目なんだってその笑顔は。



「ねえ成瀬さん」

『…はい』

「今日一緒に帰らない?」

『はい……え?』

「ふふ、決まりだね」

『え!ちょ、』


それじゃあ残りの試合も頑張ってくるよと、私の制止も聞かずに去ってしまう幸村くんに何も言えなかった。


これは、一緒に帰るの決定ですか?






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