「ねえねえ悠里!今からテニス部の見学に行かない!?」


退屈だった授業もやっと終わり、これで家に帰れるとテンションが上がった矢先に、私より明らかにテンションが高い美紗緒がやってきた。


この子は本当に暇なんだろうか。



『えー、今日はやだ』

「なーんーでー!行こうよ!行こうよ!」

『だからやだって。特に今日とか有り得ない』


そりゃあ私はテニスが嫌いなわけじゃないし、ブン太とか仁王とかが楽しそうにやってるのを見ると私も楽しくなるけど…。


今日はきっと違うところに目が行くと思う。それだけは避けたい、絶対に。なんかこれ以上踏み込んだら駄目な気がする。てか今日が駄目!朝あんなことがあったのに、うん駄目だ。



「今日じゃなきゃ駄目なんだって!」

『…なんで』

「だって今日は関東大会のレギュラーを決める試合がある日なんだよ!?」



興奮して鼻息が荒い美紗緒をとりあえず宥める。そんなんだと柳くんに愛想つかされるよと言ったら一発だった。


『それは凄いことなの?』

「何言ってるの!普通ならあり得ないよ!?」


だってメンバー内で試合とかよく有りそう。ちょっと練習付き合えよ!しゃーねえな!みたいな。


「ていうかそもそも!立海の練習を見れるって所から贅沢なわけで…」

『ふーん』

「…分かった!それならまず聞いて!」

『………え』



まずい、面倒なことになったと思ったとき既に遅し。そこから美紗緒はただひたすらに今回の試合の凄さを語り出してしまった。


「あのね?今回のレギュラーにほぼ確定なのが3強。3強は分かる?」

『た、多分』

「まずは私の愛しの柳さん!柳さんは参謀とかマスターって呼ばれてて、データテニスをするんだけど、もう冷静沈着で…!ああもうカッコイイ!」

『うん、柳くんはもういいから』

「ごめんごめん。次に真田先輩ね!皇帝って呼ばれてるあのちょっと老けた人」

『…風紀委員の人でしょ?それ聞かれたら殴られるよ?』

「あはは、大丈夫だって。それで最後が幸村だね」


幸村、その言葉にドキリとした。


「とりあえずその3人は確定だろうな」

『……2年なのに?』

「うん。実力があるからね。ダブルスだし、丸井先輩とか仁王先輩も可能性は高いと思うよ?」



美紗緒の言葉に凄く感心した。いつもあんなにふざけてるのに、やっぱやる時はやるんだ。


「切原は…実力はあるけど1年だから、流石に厳しいかな。シングルスは幸村と真田先輩と毛利先輩な気がする」

『毛利先輩?』

「うん。凄い強いんだよ。3年生も強い人ばっかだし、幸村も絶対とは言い切れないかな」



それは、幸村くんがレギュラーに入れない可能性もあるって事?という私の疑問が言葉になることはなくて、気がつけば美紗緒の手を握ってた。


『…行く』

「本当!?やった!ありがとう!」

『…え?あ、いや』


自分が行くと言った事に凄く驚いた。いやまあ私が言ったんだけど、言うつもりはなかったっていうか…。


まあ、いいかな。
幸村くんのテニスに興味がないと言ったら嘘になるし。どうせ帰っても暇だしね。



「そうと決まれば!…急げーっ!」

『え!?ちょ、美紗緒!いきなり走らないで!』



とりあえず美紗緒に腕を引かれながら、テニスコートに駆け出した。







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