学校へ行きながら、昨日のアレは夢だったのじゃないかと考えた。


いやだってどう考えてもおかしい。あの幸村くんが私を好き?申し訳ないけど、何度考えても信じられない。


確かに、接点が全く無かった訳じゃない。嫌味に聞こえたら悲しいけど、私はテニス部に何かと交友関係がある。


もちろん元部長の幸村くんとも何度か顔を合わせてはいるけど、それでも交わす言葉なんて挨拶くらい。



『…わかんないな』

「何が分からないの?」

『!?』


目の前から聞こえた声に驚いて声をあげると、朝から爽やかスマイルを携えた幸村くんがいた。


「おはよう成瀬さん」

『お、はよう』


――びっくりした。
冗談抜きでびっくりした。


目の前の幸村くんは昇降口に立っていて、周りではちらちら幸村くんを見る女の子。耳を澄ませてみると、


「やば、朝から幸村くん見れるとか泣きそう…」


どんだけだ


流石に大袈裟すぎる気がするけど、本当に涙ぐんでいて何も言えなくなる。
とりあえず幸村くんは凄い。



「それで?何が分からないの?」

『へ?えっと…』


勿論あんな失礼な事を言える筈がない



『あ、そういえばなんで幸村くんはそこに立ってるの?』

「ん?成瀬さんを待ってた」

『…え、っと何で?』

「一緒に教室まで行きたいなって」



上手いこと話をはぐらかした筈なのに、逆にやられた気分。


悩殺なセリフと悩殺な笑顔を繰り出されたら、顔を赤くする意外に何かできるだろうか?私には無理だ。絶対無理だ。


『…………』

「ふふ、照れてる所も可愛い」


………もう嫌だこの人!
朝から何を言い出すの!


「じゃあ行こうか」

『え!』


突然ぐいっと引っ張られる。イマイチ頭が働かなくて鈍い動きで手元を見ると、幸村くんの手と私の手が重なっていた。



『!?ちょ、幸村くんダメだって!』

「何が?」

『何がって!手!手!』


必死で振りほどこうとしたけど、ピクリとも動かない。当の本人はにこにこ笑っている。


「俺、ずっと成瀬さんと手繋ぎたかったんだ」


だから今凄く嬉しい、と照れ笑いをする幸村くん。こんな整った顔して可愛らしい発言。でも絶対離さない、とでも言ってるように力が入ってる手。


―そんなこと言われたら、何も言えなくなる。抵抗しても埒があかないから諦めた。



『ねえ、幸村くん』

「うん?」

『幸村くんは昨日、その、私の事好きだって言ったよね?』


不思議そうな顔で頷く幸村くん。
これだけは、聞いておきたかった。


『正直、信じられない。あ、もちろん疑ってる訳じゃないよ?でも、』

「今までそんな素振り無かった?かな」

『…う、ん』


驚いた。
私の思ってたこと言っちゃうんだもん



「当たり前じゃない、見せないようにしてたんだから」


くすりと笑う幸村くんがなんだか凄く切なそうで、何も言えずにただ彼の言葉を待った。


「君は、なにかと俺と近い場所にいて、勿論普通に友達にもなれただろうね。だけど俺は君が好きだったから、それじゃ嫌だった」


「多分彼等と、テニス部と差をつけたかったんだ。同じじゃ、嫌だった」


その時、ずっと遠くを見て話していた幸村くんが、立ち止まって私を見るから、私もつられて幸村くんを見る。


「言ったでしょ?忘れられない出逢いにするって」


そうなったでしょう?とにこりと今度は自信あり気な笑みを浮かべる幸村くん。たった2日で幸村くんの色んな笑顔を見た気がする。


『、確かに』


そう肯定した瞬間、自分が丸1日幸村くんの事で頭が一杯だったのに気付いた。


あ、やばいかもしれない…。
時すでに遅しというやつで、私の顔は紅潮した。


「それなら良かった」


私の顔が赤くなることも計算済みだったのか、あくまで余裕な幸村くん。

この人に近づくのは危ないと私の頭が静かに告げた







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