私の学校には所謂、『王子様』がいる。比喩と言われたら比喩なんだけど、それでも王子様なのだ。



あなたの学校の有名人は誰ですか?と聞かれたら即座に『テニス部』と皆が答えるだろう。それくらい私の学校のテニス部は、色んな意味で強烈である



まあその中で誰が1番強烈かっていうと、言わずもがな部長の幸村精市。顔良し、頭良し、性格良し、運動神経良し、まさに『王子様』



まあ高校から立海にやってきた外部生の私が、幸村精市について知ってることはそれくらい。


1年間かけてそれだけ?って言われそうだけど、それくらい私と彼には差がある。私は彼の存在を知ってるけど、もちろん彼は私の事なんて知らない


、と思ってたのにこの状況はいったい何なんだろう。



「成瀬さん、一年の時からずっと好きでした。いきなりで驚いてるかもしれないけど、もし良かったら付き合って欲しい」

『……えっと、え?』



全く訳が分からない。
今私の目の前では何が起こってるの?え?


「もー、これ凄い緊張するんだよ?もう一回だけ言うね?成瀬悠里さん。ずっと君が好きだった。付き合って貰えないかな?」



もー、と言いながらまた信じられない言葉を紡ぐ目の前の人は確かに幸村くんだ。


『えっと、え?それ本当に私?え、別人とかじゃなくて…?』

「いやいや、普通告白する相手間違う?」

『…ですよね。てことは、幸村くんは私の事が好きと』

「うん。ちゃんと伝わって良かった」


ふわりと笑う彼に少なからずどきっとする。いや、むしろこの笑顔を向けられてどきっとしない女子がいたら会ってみたい。


…いや、今重要なのはそこじゃない。
え、いや、え?


「…成瀬さん?」

『ええええええええええええ!?』


え、ちょっと待って!可笑しい!色々とぶっ飛び過ぎてる!おかしい!



『いや待って!?幸村くん頭は正常?大丈夫?どこで道間違ったの!?』


私がどわーっと思い付く限りのおかしい点を必死で語っていたら幸村くんが爆笑し始める。いやいやいや。笑いたいのはこっちです!


「あははっ!成瀬さん思ってた通りの反応!本当におもしろいね」

『…幸村くんの方が面白いよ。私を好きとか爆笑ものだよ』


いや本当に。幸村くんなら女の子よりどりみどりでしょ?そこからなんであえて私?でもとりあえず…

未だにくすくす笑ってる幸村くんを見て、頭を下げた。


『その、気持ちは凄く嬉しい。でも幸村くんの事そういう風に見たことなくて…。ごめんなさい!』


もったいないことしたかなあなんて頭の隅で思いながら掻き消した。こんな気持ちで付き合う方が失礼なんだから正しい。

でもこういう時ってなんて言われるものなんだろう。


「うん、知ってるよ」


少し緊張してた心を真っ白にした一言。開いた口が塞がらないってこのことだろうか。

え、恋愛経験が乏しい私でもわかるけど、こういうのってしんみりするんじゃないの?それは漫画だけなの?


私の頭はショート寸前なのに、幸村くんはペラペラ言葉を続ける。


「そもそも成瀬さんが俺の事眼中に無いことくらい分かってたし、俺たち今日が初対面みたいなものでしょ?」


同意を求められて思わず頷く。


「それならいっそ、忘れられない出会いにしようと思って」

『えっ…と?』


ダメだ。頭が上手く回らない。今私はどういう状況?


「とりあえず、諦める気は毛頭ないから。覚悟しておいて?」


ぐるぐる回る私の頭を他所に、幸村くんはそれはもう眩しい笑顔で良い放った。




『………え?』





高校2年初夏。
幸村精市、彼は恐らく私の人生で最大だと思われる爆弾を落として、颯爽と去っていった。







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