「「「お疲れ様でしたっ!」」」


……終わった。
結局ろくに試合も見れずに終わった。
終わってしまった……!


「あー凄かったね!」

『あ、うん…』


見てませんでした!なんて言えない…


「よ!悠里!美紗緒!」

「俺らのテニスどうじゃった?」

「仁王先輩に丸井先輩!」


凄かったです!と興奮した美紗緒の横で、必死に言い訳を考えてる私って…
ちょっと、いやかなり最低な気がする



「天才的だろぃ?な!悠里?」

『……ソウデスネ』

「…とうとう頭可笑しくなったか?」

『ソンナコトナイヨ』

「あ!分かった!俺達がカッコよすぎて言葉もでない感じか!」


言えない……!
見てなかったなんて絶対言えない…!
こんなに目きらっきらさせてる人に、「ごめん!見てなかった!」なんて。


言えない!

感想とか求められたらどうしよう!


「…悠里?ほんに大丈夫?」

『へ…あ!大丈夫大丈夫!』


ぐるぐる回っていた思考は仁王によって断ち切られた。はっとすると顔を覗き込まれていて、かなりびっくりした。


「体調悪いなら無理せんと早く帰りんしゃい」

「え、成瀬さん体調悪いの?」


不意に聞こえた心地良いアルト。
それは最近ですっかり聞きなれてしまった声で……。


『ゆゆゆゆゆゆ幸村くん!?』


うんとだけ言って微笑む幸村くんから飛び退いた。いや、不意打ちは駄目でしょう!不意打ちは!


「…そんなに驚かなくても。ちょっと傷つくなー」

『え!ご、ごめん!そんなつもりじゃ』


…もしかして怒らせた?
確かに失礼かなとは思いました。


「ふふ、分かってるよ。冗談」


びっくりした?とにこにこ笑う姿が凄く幼くて、かわいいなんて思ってしまった。


それにしても、

『お、脅かさないでよ!幸村くんの馬鹿!』

「あはは、ごめんごめん。成瀬さんの反応が可愛くてつい」

『!?』


な に を 言 い 出 す ん だ !
ほんっと心臓に悪い!


「あははは!もー、そんなに動揺して。ああもう本当に可愛いなあ」


……これは貶されてるのだろうか?

ぽっと顔を赤らめて「かわいい」と呟くならまだしも、目の前の幸村くんは肩を震わせて笑っている。しかも涙目。



『ねえ幸村くん、私いま馬鹿にされてる?』

「まさか!でも良かった…」

『何が?』

「成瀬さんが元気そうで」


これなら一緒に帰れるね、と言ってぐいと私の手をひいた。


『へ!?ちょ、幸村くん!』

「じゃあ帰ろっか?」

『か、帰るのはいいけど!手!』

「あ、うーん…」


考える前に手を離して下さい!
幸村くんに見えてるのかは分からないけど、一応ここ学校……。


……ちょっと待って。
今私達は学校にいて、しかもテニスコート前のはず。まあ大方の人は帰ってるけど。


確か私はブン太と仁王と美紗緒といた、はず、だよね………?
てことはまさか……。


恐る恐る後ろを振り向くと、案の定唖然とした彼らがいた。

これはやばくないか……?


『ゆ、幸村くん?』

「うん?」


かなり余裕がない私を他所に幸村くんはあくまで余裕綽々。しかもまだうーんと考えている。


お願いだから早く手を離して!
そして早くこの場を離れよう!


幸村くんに伝わるようにと目で念を送ってみたら、………にやりと笑った?


え………?


その瞬間幸村くんの顔が近付いて、耳元で囁かれた。


「…どうする?もっと見せびらかす?」

『っ!?』


こいつ…!確信犯だった…!
きっ!と睨むとくすくすと楽しそうに笑っている幸村くん。


………致し方ない!


『ーっ走って幸村くん!』

「えー!」

『えー!じゃない!早く!』

「ふふ、了解」


最終は、逃げるが勝ちだと思います。
幸村くんの思い通りっていうのは、凄く、物凄く悔しいけど!




*



「……え、何?あの二人付き合ってんの?」

「それ俺が聞きたいんじゃが……」

「……私幸村にだけは好かれたくないわー」

「「…………………」」







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