(恐らく)決定事項になった『幸村くんと下校』という事実のせいで、その後の試合なんか見てる余裕がない。


試合は立海にある6コートのうち、4コートを使って行われている。

しかも今はそのうちの2コートでブン太&桑原くんペアと仁王&柳生くんペアが各々試合をしてる事もあって、周りはきゃー!と心配してしまいそうな悲鳴。


にも関わらず、私の頭からはちっともさっきの出来事が離れてくれない。

試合自体に集中出来ないのかと思ったら、三回目だった幸村くんの試合は集中できてしまう。



『…意味わかんない』

「何がー?」


柳くんが出ていないという理由で、同じく上の空の美紗緒。相変わらず仲むつまじいようで。


『…幸村くんっていつもああなの?』

「ああって?」

『なんていうか強引?いや、でも強引って感じじゃなくて…』

「あー!」


ひらめいたとでも言うように、突然ぱちんと手を叩いた美紗緒。

いったい何がひらめいたの。


「その感覚私凄い分かるよ!乗せられてる、じゃない?」

『!』


…久しぶりに美紗緒のこと尊敬した。
確かにそれが1番しっくりくる。



「当たりでしょ!」

『うん、すごい!』

「まあ柳さんの受け売りだけどね!」


えへへと笑う美紗緒の視線の先には柳くん。その視線に気付いたのか、柳くんが小さく手を振った。



『…本当に仲良いよね』

「へ?」

『その、さ…恥ずかしくとかない?』

「うーん、照れないとは言わないけど、それも全部幸せっていうか。柳さんと過ごすことで得られる気持ち全部が嬉しい」


そう言った美紗緒の顔は、私がはじめて見る顔で、凄く女の子だった。…うん、柳くんの気持ちが少し分かった気がする。


「て、てかどうしたのいきなり」

『…いやね?言おうか迷ってたんだけど…』

「え、何?」

『実は、…幸村くんに告白された』

「え、何?」

『え、だから幸村くんに』

「うわああああああああ!」

『え、どしたの!』


美紗緒はいきなり叫び出して、信じない、私は信じないとぼそぼそ呟いている。


『やっぱり美紗緒も気づかなかったよね』

「え、それは無い」


私はずっと聞いてたからねー!っとけろっとしてる。え、立ち直り早くない?


『無いってどういう』

「ああうん。高校入学当初から、ずっと好きな子出来たって聞いてたから」


…これはさらりとは流せない。


『それ、どういう…』

「うーん、その辺りは多分私から話すことじゃないから、気になるなら幸村から聞いて?」


じゃないと私が殺される、と冗談とは思えない表情で美紗緒が続けるから、私まで怖くなってしまった。


ていうか、高校入学当初からって…。
そんなの初耳なんだけど。


『あーもう…』


そんなの聞いちゃったら余計試合に集中出来なくなる。





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