Can you keep a secret?
「なあ真琴、どっか入らん?」
立ち話も何やしな!と笑う謙也からの誘いを断る理由もないから了承した。
『でも私こっちのこととか全然分かんないよ?』
「んー、じゃあ俺の行きつけの店でええ?」
『……全然いいけど』
なんか、凄い意外。
あの謙也に行きつけの店とか。
「あ、もちろん金は俺が持つから心配せんでええよ」
…まじか!
えー!まじか!あの謙也が!奢るとか!
人間4年もあったら成長するものなんだと改めて実感。いやでもあの謙也が…。
……裏ありそうでなんか怖い。
「はは、なんやねんその顔」
『だって中学の時はサ○ゼのドリンクバーでさえ奢ってくれなかった謙也が!』
「中学の時と一緒にすなや!」
いやまあ確かにな?あの頃はケチやったと思うわ実際!なんか恥ずかしいな、と頭を掻きながら笑う謙也が凄く懐かしい。
懐かしいっていうか、遠いかな…。
でも当たり前だよね。
1番成長する思春期を4年間も離れて過ごしてたんだから。
謙也が私の知らない謙也になってるっていうのは当然の事で、謙也が私の知らない顔をするのも当たり前で。
中学時代は謙也の事誰よりも分かってるつもりだった。それくらい一緒にいたし、下手したら白石より一緒にいたかも。
謙也は私にとって、凄く大切な存在だったから。親友なんて言葉じゃ表せないくらいには大切だった。
「…真琴?ボーッとしとるけど大丈夫か?」
「へ?ああ、うん。平気平気」
「そう?ならええけど、着いたで」
謙也の声に顔を上げると、なんか凄いお洒落な飲み屋さん。え、謙也凄い。
『凄いお洒落だね!』
「はっは!やるやろ俺も」
『うざい』
「…冗談やんか!」
いやそんないじけなくても。
私だって冗談じゃないか!そう言えば、お前の冗談は棘があんねん!関東人怖いわ!と怒鳴られてしまった。
関東人に謝れ。
二人で店内に入ると、これまたお洒落な内装。凄い落ち着いてて大人っぽい。
席は丁度個室が空いていて、そこに通して貰った。
それにしてもなんていうか、
『謙也っていうより白石っぽい』
言い出してから慌てて口をつぐんだ。
いや!こんなに慌てる必要無いんだけどなんか気持ちの問題的に!
1人でわたわたしてると、前で小さくため息が漏れた。
「……流石やな」
『え、何が?』
「真琴が。実はな、この店俺に紹介してくれたん白石やねん」
『え……?』
やっぱ分かるもんやねんなーと苦笑いし出す謙也。て、いうか…ここ白石のお気に入りなんだ…。
「驚いたやろ?」
『うん、かなり』
「はは!流石俺やな!」
『は?意味分かんないから』
「………好きなん選んで」
『あはは!冗談!じゃあカシスオレンジで』
だからお前の冗談はマジで傷つくねんて!と2度目のお叱りを受けてしまった。
*
「…さて、じゃあ本題に入ろか」
カランと私のカシスオレンジの氷が鳴った。
「まず単刀直入に聞くけど、お前いま彼氏おんの?」
『…本当にいきなりだね。いないよ』
「彼氏」はいない。
「そう…じゃあ白石の事はどう思とる?」
『!ごほっ、げほっ』
「だ、大丈夫か!?」
『…大丈夫じゃないわ!いきなり変なこと聞かないでよ!』
噎せるでしょ!と怒ればすまんと謝られた。な、なに?謙也がやけに素直だ。
「すまん…けど、どう思とるん?」
『……別にどうとも』
「嘘やな」
『なっ!嘘じゃない!』
「ふーん、じゃあそれ俺の目見て言ってみてや」
『は?そんなの…!』
謙也の顔を見た瞬間に、口が固まってしまった。何で、言えないの?
「…ほらな。真琴は嘘つくとき絶対に人の目見て言えへんねん」
『っ!』
"はは、真琴はほんまに嘘つけへんな"
"……悪い?"
"まさか!俺はそんな真琴が大好きやねんから"
……なんで今こんな記憶。
思い出したくもない。
「まあそれで大体分かった。じゃあ聞いて貰おかな。真琴と別れてからの白石の話」
は……?
私と別れてからの白石の話?何でそんなの聞かなくちゃいけないの?意味が、分かんない。
『……嫌』
「嫌ちゃうやろ。あんな、」
『…っ止めて!』
室内に私の声が響いて、一瞬静まりかえる。でもその沈黙は謙也によって直ぐに破られた。
「……俺の為にも聞いてくれや」
『な、んで謙也のためなの…?』
恐る恐る聞いてみると、はあと深い溜め息がつかれた。少しだけ謙也が怖い。
「ほんまは言うつもりやなかった」
ほんっまに白石も自分も世話焼けるわ。親友の傷抉り返して!大体なあ!、とぶつぶつと話し出す謙也に少し戸惑う。
それに気づいたのか、謙也ははっとして話を止めた。
「…ほんまに、言うつもりやなかってん。一生言わんって心に決めてたんや。でもな?俺が言うことで、自分等が話聞いてくれて、少しでも関係が改善されるなら…」
「俺の誓いなんて安いもんや」
そう言って笑った謙也の顔は凄く辛そうで、凄く悲しい笑みだった。
「一回しか言わんからよう聞いとけよ?」
『謙也…』
「俺はな、真琴。…ずっとお前が好きやったんや」
『………え?』
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