もしも、クリスマスは祝うものだとはじめて明確に決めた人が存在するならば、
ともすれば、私はその人を憎むのかもしれない。



「それって、アンちゃんが宗教が嫌いだ、・・・・・・てことじゃないんだよね」

二度目の雪がちらつく頃、少なからず心を許している相手と偶然二人きりになる機会があった際に私が漏らした言葉に対して、その彼の返答がこれだ。
いや――私の性格を鑑みると、余り他人に弱みの類は話すべきではないと常々思っているだけに、少なからず心を許しているという表現は適当では無いかもしれない。

「勿論だ。その対象について表層的な知識しか持ってないのに好き嫌いを決めるようなことはしない」
「うん」
「自分の信じる教の、御子が……御子のそういう日を祝日にするというのは、当事者にとっては大きな意味を持つものだろう。ただ、私がいつも引っかかるのは、……」

べらべらとのべつまくりつしておきながら、そこで大変今更に、私は躊躇った。
大抵の人には、自らを批判されているように受け取られるような言葉だということに思い至ったからだ。
しかしここ最近私の胸に微かに痛みを伴い引っかかっていた棘に、一旦触れてしまえば吐き出して仕舞うほかない。他の問題にも通じるその痛みに、それ以外の解決を私は口を閉じるという方法でしか知らなかった。
私の自制も少々緩くなっていたらしい。

「どうして信じてもいない宗教の上の記念日に、そこまでみなで執着できる」
「………」
「いや、違う。この国の多神性について物申したい訳じゃない。私が思うところあるのは、どうして、みんな、楽しく過ごせるのかって……、だって……」
「………」
「…………クロ。お前、神は信じているか?」
「それ、俺に聞いちゃう?」

そこで初めて彼の空気が弛緩した。
ふう、と息をついて手の中の紙コップを包みなおした。昨今の節電傾向で建物の中すらも肌寒い。触発され、私も手元のコーンポタージュに口をつけた。

「信じてるよ。」

「………予想外だったな。気分を害する話題だったか?」
「まさか」

わざとらしく肩を竦めた彼を横目で見て、ならば良いかと再び前に向きなおす。

「分かっているかもしれないが、私は信じていない。神はおろか、霊的なもの云々も、まるきり。ナンセンスだと言いたいのではないぞ。…私がそれを観測したことがない以上、私の世界にそれは存在しないという考えに基づいてのことだ」
「うん」
「見えてる人の世界には視覚的に存在してるのだろうし、聞こえている人には聴覚的に存在しているのだろう。否定するつもりは毛頭ない」
「うん。」
「私の世界に神は居ない。」
「うん。」

それでも生きてる。
それでも生きてるのに。
それでも生きてるから。


「だから、妬ましいのだ、ろう…………」


ここにいたって、ようやく私は自分の真に言いたいことを切り出せた。

先程までの弁舌はなんだったのかと自分でも思うほどに微かな震えた声だ。前後の文との脈絡もない。
それでも私はこの一言を搾り出すために、これだけの準備が、回り道が必要だった。


「私は神を信じていない。ましてやカトリックなどでもない。この世界の営みはそれすべて人の努力実力時の運によるものだと思っているし、霊的なものなど見たことも感じたこともないから信じたこともない。全て物事は自分自身に起因し、それが全てだと思っている。望み過ぎた願いでもなければ大抵のことは頑張れば出来たし身に過ぎた望みはあきらめれば良かった。そうだった。だのに………」
「………」
「なのに…私は、今更…嫉妬しているの…」

努力を強要されてきた人間は努力していない人間を許せなくなってしまうように、
だから私は妬ましい。羨ましい。

「祝うべきだとしたひとは、きっと、幸せだったにちがいないと……そう思ってしまうの……」
「………」
「私は、馬鹿だな……他人の幸せは祝うべきなのに」


一人ぼっちの部屋で楽しい思いをした覚えがない。
楽しいクリスマスを過ごした覚えがない。
どれだけ惨めな思いでいるか省みられたこともない。
そんなこと省みてもらいたくもない。
クリスマスの存在は恨めない。
知らないものに信じていないものに暗い感情を持つことの惨めさなど、
だから、

だからクリスマスを最初に祝うべきと決めた人は嫌い。


家族で楽しそうなクリスマスなんて、過ごした覚えがない。




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もう祝う気ねぇなとかそんなことどうでもいいから俺と一緒にリア充のおてぃんぽで羽子板しよ?せーしで顔にらくがきしよ?そうしよ?
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