休日1


「ひまである。」

絶賛春休みの最中だ。
休日はいつもやることがなく、
ひたすら物を生成し続けているだけだ。

「あ、しまった。」

生成することに集中して材料がなくなったことに今気づいた。
今月は学費で圧迫されているからなぁ…。
いつも以上にやることがない。
その辺で物でも拾って遊んでようか、
デパートでも見に行って創作意欲でも上げようか、
図書館で見聞を広めるか…。
まあ、外に出てから決めればいいか。

「そうだ!」

この前もらったボタンポケットに入れておこう。
そして、誰かに見せびらかそう。
スニーカーを履き、扉を開けた。
春の肌寒い風が吹く。
とても静かだ。
私は扉の鍵を閉めた。
手始めに近所の図書館へ行こう。


長期休暇なせいか図書館は普段より学生が多い気がした。
小さい子もたくさんいて騒々しい。
失敗した。
次からは気をつけよう。
ここから近いのは…確か、デパートか。
デパートはうるさいけど物がたくさんあって楽しいからいい。
よし、デパートだ。
デパートに行こう。

建物が高くなってきた。
周りの騒音も大きくなってきたがデパートに着くまでの我慢だ。
早くデパートに行く一心で足を動かす。
騒音が近くなって来た。
近くなって来た…?
おかしい、都会での騒音は不思議なものではない。
それなのに近くなる?
なぜだ。
私は不穏な気配を察して辺りを見回した。
ふと目に入った、私の立っている場所の後方。
そこには異様な人だかりができていた。
人だかりの中央に立っている人物。

「ったく仕事で小娘のケツ追っかけ回すとかダルすぎ。なんで、強いこの俺がそんな雑用やんなきゃいけねーんだよ。そんな仕事は三下にやらせとけってーんだ。けっ上司が使えねーと部下は困ったもんだぜ。」

「なんかあいつやばくね?」
「もしかして敵だったり〜?」
「こいつの写真撮っておく?」

ひたすらぼやき続けている男性と人だかり。
あれ……人だかりの声が遠く聞こえてくる。

「あれは……敵?」

思わず息を飲む。
そいつと目があった。
そして、奴の口が

「み・つ・け・た」

私は走った。
人混みを割れ。
後ろを向くな。
まずい、
あいつは私に言った。
とりあえず警察だ、警察署。
警察署はどこだった?
落ち着け、冷静になれ、そして焦ろ。

「ぐっぐぎゃああああああ!!!!!!」

この世のものとは思えない声が聞こえる。
私はつい後ろを見てしまった。

「ひっ!!!」

棘の個性を持つのだろう、全身棘の男が追いかけて来ていた。
あいつに捕まったら全身穴だらけになってしまうだろう。
怖い。
警察!!警察!!
いつもヒーローは遅れてくるんだ!
待ってなんていたら死んでしまう!
思い出した、警察署は近くにある。
次の信号を右に曲がれば、
走る。

この角を曲がれば、
私は道を右に曲がった。
その時ほんの一瞬体が宙を舞った。
躓いた。
直後強い衝撃が体を襲って来た。
コンクリートで体が擦れる。

「おいてめぇ!!いってぇな!!!」
「ご、ごめんな、い゛っ!!

刹那、足に激痛が走る。
あいつの棘が足に刺さったみたいだ。
じわじわと血が滲んで行く感覚がする。
コンクリートに血が浸みている。

「や、やべぇって…」

先ほどぶつかった男性が狼狽える。
やばいのはこっちのセリフだ。
落ち着け、考えろ。

「ぎゃっぐぎゃあああああああ!!!!!」

あの叫び声が聞こえる。
何か、何か手は、
ポケットにはボタンが。
そうだ、ボタン。
袖、袖、腕か、

「い゛った……!!」

考えているうちに刺々しい手に足を掴まれた。
痛い。
我慢しろ。
そうだ、腕、腕だ、掴まれても腕を動かなくすれば…!
一瞬だけなら…!
私は個性を使った。
コンクリートをくり抜く。
そのコンクリートを長い尻尾で掬い敵の肩に勢い良くぶつける。

「うっらあああっっ!!」

全力で敵の肩にぶつけた!
敵は反対側の壁にも激しくぶつかった。
一瞬敵の手が緩んだ。
その隙に足を動かす。
敵は短時間だが痙攣して動けないはず。
あと少し、あと少しだから…!!
すでに目の前にある警察署がかなり遠くに感じた。
死に物狂いでたどり着いた警察署の扉を開けた。

「すっすいません!!敵に追われて!!」
「あれ、君!!うわっ、血が!!」

私は驚いた猫顔警察官に保護された。
もう安心して、と聞こえた気がした。
あの、あの叫び声は聞こえない。
敵がもう追ってこないところを見ると
警察署に入ったところを見て諦めたか、
ヒーローが来たか。
後者の方が可能性は高いか。
猫顔警察官が止血をしてくれている。
私はそれを見てようやく安心した。
猫顔警察官の後ろから見慣れた人が現れた。

「はじめくん、だね…?」
「はい。つかうちさん、こんにちは。」
「君……。」

塚内さんは、はぁと深いため息を吹く。
気難しそうな顔をしている。

「う〜ん…まあ、いいか……。
はじめくんはこの春から雄英だったかな?」
「はい、サポート科になりました。」
「…君の個性ならヒーロー科は入れたんじゃないかい?
それに君は頭もいいし、運動神経もあるだろう?あと……」
「でも、ものをつくる学科はサポート科って聞きましたよ。」
「君がいいならそれでいいけどね…。」

なんだか、塚内さんは不服そうだ。
何故だ。

「塚内さん、念のため病院行くべきかと。」
「そうだな、私が彼女を病院に連れて行くから
君は彼女の襲われた現場に行ってくれ。」
「わかりました。」

私が口を挟む暇もなく物事が決まって行く。

「つかうちさん、私入院費はらえません。」
「君はいつもそうやって…いいから見てもらうだけ見てもらいなさい。」
「……。」

まことに不服である。

「あ、そうだ。みてみて〜!!友だちからもらったボタン!!」
「……。」
「いいでしょ〜」
「…いいなー」
「……。」

塚内さんは感情のこもっていない返事をした。
不服だ!
その後、私は精密検査を受けた。
「扶助でどうにかなるから。どうどう。」と捕まりながら病室に入った。
処置も早く、急所は外れていたとのことで絶対安静の上で帰宅を許された。
帰りに塚内さんとラーメンを食べてから家に送ってもらった。
緑谷にはあとで感謝しようと思った。

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3月○日

春休みだからてきとうに遊びにいった。
敵がいた。
災難だった。
警察の人とラーメン食べた。
今日はとんこつ味。


2017/04/16


BacKGO

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