中学の卒業式


無事に雄英のサポート科に合格した。
出席日数が少し足りなかったが、
雄英とちょこっと契約して来年度からは晴れて高校生だ。
これで緑谷と同じ学校だ!

「卒業か…。」
「はやいね、高校生になるなんて思えない!」

中卒で生きていくと思っていたから驚きだ。
学費はなんとかなった。
友だちをいっぱい作るんだ!

「出久ー!!卒業おめでとうー!!」

声のした方には緑谷に似た女性。
感動しているのか涙を流していた。

「母さん!」
「みどりやのお母さん?
なら、家族水入らずで喋っておいでよ。
私はそのへんにいるから〜」
「う、うん!また後でね、蛇尾さん。」
「ばいばい〜」

緑谷は手を振って離れていく。
歩く先には緑谷母がいて、 緑谷は嬉しそうだ!
緑谷母も嬉しそうに祝福している。
近くには爆豪と爆豪の家族もいた。
そういえば、幼なじみだっけ。
……そのへん歩こ。

会場付近は卒業生の親子で溢れていた。
教室で隣の席だった子
昔私に告白してきた子
お世話になった保険委員の子
爆豪の取り巻き
たくさんの人が祝福されていた。

「母さん……私もいつかあんな風に………」


「あ、あの!!」
「……誰?」

突然背後から呼び止められた。
そこにはそわそわしている二年生の生徒がいた。
今日は卒業生と二年生しか学校にいないはずだからな。
感傷に浸っていて気づかなかった。

「えっと、蛇尾先輩!!」
「はい。」
「その……先輩のことがずっと好きでした!」
「うん。」
「ずっと追いかけてました!!」
「そうなんだ。」
「でも先輩はこういうの興味無いですよね、」

へらぁと笑い出す二年生。
口とは対照的に眉間は歪んでいた。
失笑に近い笑顔だった。
やめろ、そんな泣きそうな目で見るな。

「ない。」
「はは、噂通りの人だなぁ〜…」
「…うわさ?」
「人の気持ちを考えず切り捨てて行く感じとか」

二年生は「あと〜淡白なとことか〜 空気読めないとことか〜ゴニョゴニョ」
と楽しそうに私の話をしている。
こいつはフラれたはずなのに、

「…何か楽しいの?」
「楽しい…というか先輩に思いを伝えることが
出来たので満足です!!」
「フラれたのに?」
「フったの先輩じゃないですか〜もう〜!!」
「いたい!いたい!叩くな、背中いたい!」

思いが通じなかったのになんで笑顔なんだろう。
不思議だな。

「蛇尾先輩、一つだけお願い
聞いてもらえませんか?」
「…無理じゃない範囲なら。」
「やった!」

二年生は笑顔だった。
恋というものはつくづく分からない。
こいつは思いが通じなかった相手にも笑顔だ。
私の返答一つで一喜一憂している。
恋とは難しいものだ。
きっと私はこんな風にできない。
二年生の敬意に称して 私のできる限りのことをしよう。

「それで、どうすればいい?」
「えっと…先輩の制服のボタン貰えませんか?」
「……。」

どういうことだ。
ボタンなんて貰って何に使うんだ?
二年生の制服はボタンが足りないとか?
女子制服のボタンだぞ?
男子制服とは勝手が違うはずだ…。

「先輩、眉間しわすごいですよ。」
「ボタンくらいなら……いっか…。」
「本当ですか!!」

嬉しそうだ。

「うん、でも何につかうの?」
「え…?何に……何にって言われると困りますね。
飾る…とか。」
「…?私のつけてるボタン、
ごく普通のボタンだよ?」
「先輩のだからいいんです。」
「へ〜……そういうもん?」
「そういうもん、です。」

そういうもん、ってなんだろう。
恋と関連付けられているのだろうか。

「私のことすきだから?」
「ぶっ!!先輩……それ、自分で言います?」
「あってる?」
「はぁ………あってますけどぉ…。」
「すきな人のボタンちぎるのが流行り?」
「流行りではないと思いますけど…
思い出…みたいな物だと思います。」

思い出かぁ…なんか、いいな……。

「ふ〜ん………
友だちのボタンちぎったら思い出になる?」
「なるんじゃないですか?」
「いいこと聞いた!
そうだ、忘れないうちに はやくボタンを選ぶといい。」
「どれ貰っていいんですか?」
「どれでもいいよ。」
「第二ボタン……は、ないから…
じゃあ……これ。」

二年生は襟についているのボタンを指した。
私はボタンをちぎり二年生の手の上に置いた。

「スナップボタンだけど……これでいいの?」
「…はい。」
「それじゃ、ばいばい。二年生。」
「二年生……俺の名前は…まあ、いいや…
さよなら、先輩。
ご卒業おめでとうございます。」
「!!えへへ……ありがとう!
気分がいいからこれもやる!!」

二年生にリボンを押し付けて、その場を後にした。
そして、私はこれから緑谷のボタンを
ちぎる!思い出を作る!
緑谷と緑谷母を見つけた!

「みどりやー!!」
「蛇尾さん!どうかした?」
「ボタンくれ!」
「えっ?本当にどうしたの?」
「ボタンが思い出になるらしい。」
「へ、へぇー……。」
「はっ、出久。母さんちょっと用事が……。」

緑谷母がぱたぱたしている。
息子の卒業式以上の用事があるのか…?

「大丈夫だよ、母さん。
蛇尾さんはきっとそういうつもりないから…。」
「そう?」
「そういうつもり?なんのはなし?」
「ううん、何でもないよ。
袖のボタン解れてたからそれで大丈夫かな?」
「うん!!」

緑谷から ボタン をもらった。
▽友だちとの思い出を手に入れた!
そっと胸ポケットにしまっておいた。

「だいじにする!!」

なるほど、二年生が欲しがった訳が
なんとなくだがわかった。
これは嬉しいな。

BOOOOOM!!!

「この音は…!みどりや!私、帰る!
ばいばい、高校で会おう!」
「まっ、待って!!かっちゃんがっ…て…
…蛇尾さんいない…。」

高校生活が楽しみだ!!



「きっと先輩は第二ボタンの意味も知らないんだろうなぁ…。」

少年の口からこぼれた呟き。
彼の頬は少し濡れていた。

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3月×日

中学の卒業式があった。
親子がいっぱいいた。
二年生にボタンとリボンをあげた。
なんでも、思い出になるらしい。
友だちからボタンをもらった。


2017/04/11


BacKGO

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