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C)飼い主探し (お題:初めまして)




 穏やかな日差しの中。
 広々とした丘の上に

「ちょ、ちょ、ちょおおおおお!」
 男の声が響く。
 男は大きな赤毛の馬に跨り遠乗りにでてきているようだが、どうにも様子がおかしい。大きな体躯を乗せて走る馬の目はきらりと輝き、その騎手の声を半分聞き流しながら夢中で地を駆けている。
「なんでそんなやる気なってんの?!」
 男は馬の毛色以上に鮮やかな赤色の髪を振り乱しながら愛馬の動きに必死についていき、【彼女】が競う馬をちらりと見た。
 賢そうで上品な馬。此方は騎手の意思をしっかりと理性的に聞いているような目をしている。その騎手も簡素なシャツを着た男とは違い、きちんとした身なりの上品そうな男だ。

「中々速いね。久しぶりに思い切り駆けることができた。」
 丘の頂上にある大きな木までたどり着くと、互いに馬の歩みを緩めて軽く息を吐く。ゆったりとした歩みの中で相手の騎手の声を初めて聞いて、男は血が怯えるような歓喜するような、本能的な感覚に息をつまらせた。



「…それはクリオールの嫡男様じゃないでしょうか?」
「クリオール家の?」
「兄様より少し下くらいの、騎士服を着た、髪の長い優男風の貴族。ならそうだと思う。」
 ぞわりと沸き立つ感覚につい騎手の名を聞きそびれた男は馬を連れて中心街にある実家に戻り、弟妹に問いかけてみた。先に会った人なのだけれど、と。
 すると、男より薄い赤色の髪をした弟と、暗い赤色の髪をした妹はその人物を知っていたようで、すぐに答えを返してきた。
「兄様。子爵様の息子くらい覚えていましょうよ。」
「今から覚える!うんじゃ、ちょっと俺いってくるな?」
「どこへ行くの?」
「クリオール家本家。」

 それから男は、先にあった貴族の若者を探して街を回った。
 本家に顔を出すも今はこちらに住んでいないと退けられ、別宅を探そうにも彼自身に直接的な貴族へのコネクションは無い。騎士の練習場に足を運んだり、愚直にも貴族街を闇雲に練り歩いたりとして調べ、漸く別宅へたどり着いた頃には遠乗りの日から数日が経っていた。

 大きめの屋敷の外観を見上げて一度深呼吸をすると、扉についたノッカーをしっかりと二回、叩いた。
「…はい。何方様でしょうか。」
 少し間を置いて、扉を開けたのはきりりとした表情の執事。大柄な男より小さいが、スラリと長身の男である。
「シャン・ドゥ・ギャルドと申します。ベルホルト・クリオール様にお使いしたく、伺いました。」
 厳しそうな目を真っ直ぐに見つめ返しながら自身の名と、要件を伝える。が、男の余りに普段通りの格好と、ボサボサな頭や身なりに執事が怪訝そうに目を細めた。
「主は只今外出中です。…それと、誰の紹介もなく、急に来るにしてももう少し礼節を持った出で立ちをしてくるべきでは…?」
 お帰りくださいと目の前の大きな扉が締められる様を、目をパチリと瞬かせながら見送った。

 その日の夕方、再びその屋敷にシャンは訪れた。
 昼に来た時とは姿を改めた、裾が短めのモーニング・コートの姿。ぼさりと乱れていた髪も整えてあり、無精に生えていた髭も綺麗に剃られている。
 昼と同じように、しっかりとノッカーを二回鳴らして中にいるであろう屋敷人を呼ぶ。
「…また、貴方ですか。」
「ベルホルト・クリオール様はいらっしゃいますでしょうか?」
「…はぁ…意外としつこい方ですね。」
「ここは譲れません!」
 相手の目を頑なな決意を込めてジッと見つめて返答をすると、執事は深く深く溜息を吐き、少々お待ちくださいと一度扉を閉めて屋敷の中に戻っていった。

「中も、立派な屋敷だな…」
 それから間も無く、先ほどの執事が再び扉を開けて、男を客間へと案内をしてくれた。ひとり残された客間で、品のいい立派な内装につい周りを見渡してしまっていると、閉じられた客間の扉が開く。
「主様をお連れいたしました。」
「おや…君は……丘で会った子、だね?」
 執事の後をゆっくりと歩んで客間に入ってきた屋敷の主に男は佇まいを改める。相手をジッと見て本能に確認をとると、その大きめの口を開いた。
「シャン・ドゥ・ギャルド、と申します。覚えていてくれて光栄です。ベルホルト様にお仕えさせていただきたく、参りました。どうか、雇って頂けませんでしょうか。」
 目を逸らさずにまっすぐと。ハキハキと告げると、ゆっくり頭を下げた。優秀な執事から内容を聞いていたのか、主は驚く様子もなく向かい側のソファーに腰掛けながら疑問を口にする。
「…何故、一度会っただけの私に?クリオールに、ではなく【ベルホルト】に仕えたいと言い切った理由をきこうか。」
 当然問われる希望理由にシャンは目をパチリと瞬かせる。偽る言葉を知らない明るいピンク色の眼でベルホルトをジッと見つめて、至極嬉しそうに微笑みながら答える。
「丘で、貴方の馬を見て、走りを見て、何より声を聞いて。本能的に使えるべき人だと思ったんです。」
 単純で子供じみた答えに騎士とその執事の目が呆気にとられているのをシャンは感じ取り、居心地悪そうに頬を掻いた。
「…あの、信じらんないかもしんないんですけど…本気なんですよ。下働きでもいいし…その、体力はあるんで…」
 じわりじわりと大人が言うべき言葉ではないとわかっている自分の本心に羞恥が湧いて、語尾が濁る。その様子を屋敷の主は微笑ましげに目を細めて眺めていることにも気づかずに。
「…丁度もう1人雇おうと思っていたところでね。私はベルホルト・クリオール。屋敷の事は彼に聞いてくれるかい?私の執事、ガロット・テルミナスだ。」
「…甘やかしは一切いたしません。きっちり勤めていただきますよ?」
 二人の言葉にうつむきかけた顔をバッと上げて、全身で喜ぶように、ぱあっと笑顔を見せて何度もこくこくと、男は頷いた。

 愚直な男の屋敷勤めの生活はこの日から。
 この屋敷で務めたことを家族や学友に話すと一度では信じられなかったとかそうじゃなかったとか。



「よろしくお願いします!ベルホルト様!ガロット先輩!」
「此方こそ宜しく、シャン。」
「宜しくお願いします…少し貴方は落ち着きなさい。シャン。」








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ちょいグダグダで済みません!!
ほわっとふわっとこんな感じでシャンはベルホルト様のお屋敷でお世話になりだしました。
野性味強すぎるやつですがどうかよろしくお願いします!!



ベルホルトさん(@lelexmif)
ガロットさん(@irk_ssm)
おかりいたしました!!






みそ




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