リベアム | ナノ
A)甘い味苦い味



「うん?私の好きな人?」

昼食を終えた皿を洗い終わって食器を拭いていると、食後のデザートを食べる女性客の話はなんとも華やかな話題になっていて、作業をしていた私にも話が振られた。
「マスターって男が好きなんでしょ?彼氏とか居ないのー?」
彼氏ねぇ…と考えるように繰り返していると、質問をしてきた彼女とは別の子があれ?っと口を開いた。
「マスターの彼氏ってティオルノ君じゃないの??」
「へ?」
「えっ?」
突然でた従業員の名前に驚き、つい声を上げると、新たに質問をしてきた彼女も驚いた声をあげる。彼女は「だって」と言葉を続けた。
「ティオルノ君ここすっごい長いし、マスターと仲も良いから私はてっきり。」
私が驚いてしまい、すこし気まずそうにしながら女性客はもごもごと言い訳のように口を開く。それを聞くと私は「何だそんなことで?」とくすくすと笑いながら首を横に振った。
「確かに私は同性愛者だけどティオ君はノンケさんだし。ノンケ食べるのも楽しいけどせっかくの従業員に辞められるのは辛いからねぇー。仲が良いというより付き合いがかなり長いから。」
ザンネンでした。と笑いながら告げると、女性客は何処か納得がいかないと言うように赤い唇を尖らせてデザートのスプーンをくわえていた。
「だってマスター、ティオ君がナンパしてると邪魔するじゃない?」
「…そう?けどほら私が楽する代わりにたっぷり働いてもらわなきゃならないし。忙しい時以外は口煩くないつもりだったけど…」
お邪魔だったかな?と首を傾げて見せると、「マスターは相変わらず男性に厳しいね」と彼女達は笑った。

二人が帰った後、やはり女性は周りをよく見ているなと、内心呟く。
正直認めたくはないものの、認めざる得なくなってきているから自覚はある。なにせ驕った野郎で発散出来なくなったのだから。心境で欲求不満なんて存外私もまだ若かったらしい。
けれど、特に何をするつもりもない。
彼は今日も出勤してくれるし、程々に構ってくれるだろうし。
例え誰かに取られたとしても、初めてじゃあないしね。
彼、結婚したことあるし。
それを思うと、彼を襲おうとは思わない。私もティオ君も長命種に入るし、今のまま、楽な関係で満足だったりするのだ。

それに。
『僕』も恋愛は、もううんざりだったりするし、彼もきっとしたくはないだろう。
何十年と付かず離れずの距離でお互いのボーダーラインは踏み込まない。いや、今となっては知られようが構わないだろうが、踏み込む必要がないのだ。
そんな中、ちらちらと零される彼の恋愛話はもう失くしたもので、甘かった分じくじくとした苦味が消えない重いものになった。
だから彼も多分『恋愛ごっこ』までしかしない。

ならば伝えるだけ損でしかないのだ。

方向は決まっているけれど
問題は

「言わなくても気づかれたらアウトかなぁ」

気まずそうに見られるのは私の意にそぐわない。むしろ最悪だ。
女性ほど鋭くはないだろうけれど、気をつけるようにしよう。





隠し味はバレないよう 細かく切り刻み
上手く混ぜて ゆっくり寝かせて小さくしてから
別のものに混ぜて焼いてしまえ




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ティオルノ君(@tsune_libeam )お名前お借りしました!






みそ





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