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X)薔薇が香る条件



新しい月に移り変わり、何かと領主の仕事が立て続けに入った。
最下の位の貴族など所詮コインと繋がりだけで手に入るもの。難しいのは維持と繁栄をさせること。どれほど強かに損をし、それを得とするか。上位の貴族の代わりに面倒を受け持つも珍しくはなく、あるべき領地の他に遠方へ足を伸ばしたりと屋敷をあけることも少なくは無かった。
その上、屋敷に戻った時も夜会や店の営業。
元々エルフの丈夫ではない体に無理を強いていると自覚はしていた。

「じゃあ、お休みなさい。…余りはしゃぎすぎてはダメよ?」
遠方からのお土産を従業員に渡してクスクスと笑いながら就寝の挨拶を告げる。もう少しすると、空が明るみ出し、双子が起きだす頃だろう。
アレキサンドラ・ペルレはゆっくりと広々とした階段を優雅に、踵を浮かせたようなヒールの靴で上り、一番上にある豪奢な扉を開けて中に入った。
「…っ…」

瞬間

足首からぐらりと力が抜ける。しがみ付くようにして何とか鍵をかけると、ヒールブーツを脱いでフラリとベッドに近づき、崩れるように身体を落とした。
疲労からくる高熱に、睡眠不足からの頭痛とせり上がるような吐き気。
ぐらぐらと天が巡るほどの目眩まで起こしているのについつい苦笑する。これ程体調を崩したのは久方ぶりかもしれないと。
しかし何時もの事だ。
弱みを見せないよう張り詰めて、自らで解決してきた中の小さなトラブル。
唯一コントロールの出来る治癒と言う魔法は便利なもので、自らの病にも有効に利用できた。

締め切った部屋でふわりと香るそれに気が向いたのは自らに魔力を巡らせる直前。ベットサイドにある小さな棚の花瓶のなかで咲き誇るそれが香りの源だった。

(ああ…遠方に発つ前に力を注いだきりだったわ…。一本目が萎れかけている…)
ボヤけた視界でくすんだ赤色を確認すると、胸にあてがった指先を宙に向け、くるうりと回す。柔らかなグリーンをした魔法は風がそよぐように香り高い想いの花へと降り注ぎ、染み込むようにその赤の中へ入っていく。
力と輝きを得た花は徐々に鮮やかさを増し、変わらず香りを満たし続ける。
そんな花の様子をエメラルド色の瞳に映すと、彼女はゆっくりと瞼を閉じた。
日が昇り、沈み出せばまた自らが咲き誇るべき夜が訪れる。

花は直ぐに枯れてしまう。
それは命も想いも同じ事。
咲き乱れ切ってしまった自らが彼に何を与え切れるとゆうのか。
花の送り主からの想いを知らぬふりをする一番の理由はこれなのだ。
すっかり虚勢を張って硬くなった自分はきっと恋人として、あまりにハズレくじで。
そんな自分が縛るなんて勿体なくて。
ただ、多少強引な彼に惹きつけられた想いがあるのもまた事実で。
貰った花が枯れぬよう魔法をかけ続けているのもその隠せない想いの断片で、閉じた目の奥では海辺で魅せられた一瞬の花が見えた。

【たまにはこうゆう花もいいでしょ?】

手の上でぱちりと爆ぜる光の花に綺麗と思ったのと同時に焦りがあったのを彼は知らないだろう。
この花が散ってしまうのは魔法を使っても止められなくて、想いもそうなのだろうかと、不安がよぎった。

「…すぐに花も贈られなくなるかしら?」

それを思うとどうにも心は穏やかではないのだけれど…簡単に折れてはあげない。
思いを受け入れるのはきっと容易いが、自分は彼を『男』として見ると約束をしたのだ。だからこそ…此処は引きだしてもらわなければならない。

「ねえ、カレルヘルム。貴方は何か忘れてない?」


くすりと笑うと、ゆっくり香りを吸い込んでころりと横向きに身をよじる。


(私が花言葉を知らないと言った意味に気付いて)


小さく口の中で呟くと、いい加減体調を回復させなければと小さくあくびをして夢の中へと滑り落ちた。




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カレルヘルム君(@irk_ssk)お名前お借りいたしました!!








みそ






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