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『Just for you C』



 玄関を開くと広がる濃い茶色の床はしっかりと磨かれてあり、赤茶色の毛足の短い絨毯が中央に敷かれている。入口から奥に広がる部屋にはローテーブルと、大きめの長い濃い緑色をしたソファーがテーブルを囲むように設置してあった。壁には古いながらもしっかりと組み立てたれた暖炉もついている。
 どうやらここはリビングになっているらしい。
「ただいまー!ささ、お二人は座って少し休んでいてください!市場は疲れたでしょう?」
リビングやその先に低めの棚で仕切られているダイニングから見える窓すべてを開けて家の換気をしながらシャンは客人二人に声をかけた。その言葉にベルホルト・クリオールとガロット・テルミナスは手に持っていた荷物をテーブルに置いて、ソファーにくったりと身を沈めた。
「…市場は祭り以上の熱気があるな…」
「これを母親たちは毎回…」
 ぽつりとつぶやかれた言葉についついシャンは笑ってしまいながら手を動かした。確かに、貴族街に住まう女性たちには到底難しそうな日々の生活での一部である。
「たはは!そうっすね、俺らの周りの母親は毎日こんなんばっかりだから皆逞しいですね!気性が!」
 けらけらと笑いながらそう声をかけて、二人にとギャルド家特製の果実水を入れてくる。よく冷やした果実水はオレンジの爽やかな甘みがついていて、よく身に染み渡るように味は薄めである。
「はい、よかったらこれ飲んでいてください。俺ん家特性ドリンクです!じゃあ、少し下準備しますんでお二人はちょっと休憩をしていてください。」
 そう、二人に告げると、シャン・ドゥ・ギャルドはぱたぱたとダイニングの奥にあるだろう、キッチンの方向へと向かった。
「…なるほど、あの人の波を幼き頃から走っていけたからシャンはあんなに体力があるのかもしれないな…」
「…それは同意です、主様。…予想していたよりも綺麗な家ですね。」
 主の言葉に頷いたガロットはゆっくりと家を見渡した。
 暖炉の上に置いてある小さな時計は壁にうくことなく溶け込むレンガ色をしていて、ダイニングの手前にある棚にかかっているクロスは柔らかな白色をした細かなレース編みになっている。あからさまに兄弟の母親の趣味なのだが、普段接しているシャンのイメージとは少し違ったセンスが見えた。
「…弟の母親だと思えば理解はできるだろう。」
 兄弟でも感性の全く違った魔法具師の弟を浮かべてなるほどと納得ができたようで、先輩執事はなるほどと頷いた。

「さてと、主様、先輩、準備が整いましたのでキッチンにお願いしますー!!」
 暫くして、キッチンの奥からシャンの声が響いてきた。二人がゆっくりとキッチンに入ると、既にスープ鍋とフライパンが温められている。
 水場の後ろに置いてある真っ白な作業台には既に大きさを揃えられたパイ生地がいくつか積んであり、大きめのボウルにはざく切りされた肉が入っている。
「俺はまだ作るのがあるので、お二人でパイを包んで欲しいんです。こう、真ん中に中身をスプーン山盛りいっぱいおいて、ぱくんと閉めて重なったとこをフォークで軽く押しつぶす。これだけです!」
 二人に水場で手を洗ってもらってから、手本に一つパイを包んで見せる。大きな手のシャンの手のひらほどのサイズのミニパイを見て二人が了承したのを確認すると、じゃあ、できたらこの鉄板に並べてくださいねと告げてからシャンは作業に戻った。
 柔らかく煮たかぼちゃを丁寧に裏漉ししてミルクでなめらかにといていき、少しだけ塩味を足す。そのスープを氷の上に置いて冷やしながらサラダとガーリックソースに手をつける。
 ある程度作業を進めたところでシャンの背後から先輩執事の声がかかって手を止めて振り向いた。
「わ!全部終わったんですか?」
「これでいいか?シャン。」
「綺麗にできてますよ!ありがとうございます!!…先輩具、少なくないっすか??」
「閉じたら溢れるから減らしましたが?」
「あふれさせてもいいのにー。先輩らしいっすけど。」
 けらけらと笑いながらシャンは鉄板を手に火元へ向かう。コンロの左側の壁にある小さな窯の蓋をもう片方の手で開けた。
「窯はあっためてあるんで、あとは焼くだけですね!」
「シャンの家は窯があるんですか…」
「ちっこいですがね。俺と親父が大量に食うから鍋じゃ間に合わなくて。」
 その理由にふたりが納得するのを見てシャンは笑うと、熱気に包まれた窯の中央に鉄板を置いた。窯の蓋を閉めると、そばにあった砂時計をくるりと回す。
「これが落ちたら一度加減を見ます。主様、ちょっと見ててもらってもいいですか?」
「構わない。」
「目を離さないでくださいね!」
 そう言ってシャンは先輩執事の腕を引っ張り、作業台の方に連れてくる。急に移動させられて困惑するガロットに溶けたチョコレートと細い棒を渡した。
「ケーキの上に飾るメッセージプレート、お願いします。」
 こそっとそれだけを告げると、白いチョコレートで作られたプレートを作業台に置いてニシシと笑ってみせた。

「シャン、砂が全て落ちたぞ。」
「あ、終わりました?じゃあ少し見てみましょうか。」
 間も無く、プレートの文字を書き終えたガロットが戻ってきた時にベルホルトが砂時計の終わりを呟く。その知らせに既に料理を盛り付けだしたシャンが一度手を止めてから窯の扉を開いて中の鉄板をグローブを着けた手で引っ張り出す。
 鉄板の上にあった白い生地のパイはこんがりと焼き上がり、一つ、シャンがフォークで刺すと、中から透明な肉汁が溢れた。
「よし、中まで火は通ってますね。丁度全部出来上がったのでご飯にしましょう!!」

 それぞれ両の手に持てる皿を持ってダイニングへと移動をする。焼きたてのミニミートパイ、こんがり焼いたベーコンが乗った半熟卵のサラダ。冷やしたカボチャのスープに香りが強めのガーリックトーストなどなど。それと、冷やしておいたシャンパンもグラスと一緒に並べる。
「作るのも中々楽しいものだな…ガロットのケーキを作った時にも思ったが。」
「その節は本当にありがとうございました。」
「みんなで作ると甘さも一入ですね!!パイうまいです!!」
 普段よりも会話を交わしながらの食事を終えて和やかに話をしていると、途中シャンは手を洗ってくると席を外した。賑やかを体現したような執事が席を立ったあと、主が小さく息を吐いたのを聞いてガロットは顔色を伺うようにして問いかけた。
「疲れてしまわれましたか…主様?」
 何時も通り気遣いを怠らない執事にベルホルトは苦笑しながら首を振った。
「いや、なんだろうな。こう思い切り振り回されることはそうそうない。なかなか楽しかった」
「まだ今日は終わりじゃあないですよー!」
 その言葉が言い終える前。言葉の最後にかぶさるようにシャンの声が響くとダイニングの明かりが落とされた。リビングの明かりは付いたままのためそこまで暗くはないが、ベルホルトの目には薄暗いくらいの明るさになる。
「ハッピーバースデー!!ベルホルト様!」
 細く小さなロウソクが刺さった丸いショートケーキを手にしたシャンがキッチンから出てきて己が主の前のテーブルにそれを置いた。
 たっぷりと苺の乗ったショートケーキは黒いチョコレートスポンジに真っ白いクリームがデコレーションされていて、中央に「Happy Birthday ベルホルト様」と几帳面な文字で書かれたプレートがのっている。
「シャン!灯りを落とすなんて聞いていませんよ!」
「だってロウソクつけたかったんですもん!!さ、主様、願いを込めて火をけしてください!!」
 普段通りの言い合いを聞いて思わず笑ってしまいながらベルホルトが了承してロウソクの火を消すと改めて二人の執事からおめでとうという声が響いた。

「はい!主様、プレゼントです!」
 ダイニングの灯りをつけ直してシャンがパタパタと別室に行き戻ってくると、その手に持った15センチほどの青い包みを差し出した。開けてみてくださいと褒められるのを待つ飼い犬のように目を輝かせるシャンに促されてベルホルトが包みを開けると、箱の中にはガラスの丸いコップ。それと、その中に木製の、動物のおもちゃのようなものが入っている。
「…シャン、これは?」
「ベルホルト様と、ガロット先輩。あと俺のイメージのおもちゃです!」
 金の目をした白いライオンと、赤い目でメガネをつけた黒い猫、ピンクの目をした赤茶色の犬をかたどった5センチくらいの人形たちはそれぞれコップにしがみつくように淵にぷらりとぶらさがっている。シャンが言うにはしっぽから水を吸い上げて、動物達が背負っているかごの中の観葉植物を育てていくらしい。
「すんごい子供っぽいですけど、ベルホルト様植物、嫌いじゃないみたいなのでそれにしてみました!」
 自分よりも大きなシャンがどうですかと首をかしげる様がおかしなことにコップにしがみつく犬のおもちゃにそっくりに見えてしまい、ベルホルトはくすりと可笑しそうに笑った。
「いや、ありがとう、シャン。…よくこの色が見つかったものだな。」
「や、それは手塗りです!どうしてもこの色にしたくて!!似てませんか??猫の目つきが悪いとことか!!」
「シャン!!」
「さーせん!!」
 間髪入れずの怒鳴り声にすぐさま謝ると、調子よくシャンはガロットの背に回ってその肩を軽くおした。
「はい、次は先輩の番ですよー!!」








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ベルホルトさん(@lelexmif
ガロットさん(@irk_ssk
おかりしました!!

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みそ

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