リベアム | ナノ
C・R)小さく大きな願い事






「付き合ってもらってありがとうございます、兄様。」
「ディナーもすんだからな。荷物持ちくらいいつでも言えよ。宝石の屑も重たいだろ?」
 弟が兄を見上げながら礼を述べると、兄はにかりと笑いながら首を振る。
 二人はとっぷりと暗くなったリベルタの中心街を大きな麻の袋を両手に抱き抱えながら並んで歩いている。いつもは賑やかなこの道も今はメインストリートの酒場や一部の店以外は灯りを小さくして静まっている。
「それにしても今回は多いな。…何を作るんだ?」
 ずしりと重い袋を抱えて首をかしげる兄に弟は柔らかな笑みを浮かべると、荷物を落とさないようにバランスを取りながら彼自身が身につけている長いローブの袖を探り、小さな指輪を取り出した。それは彼自身の中指ほどの大きさの細い指輪で、中央にある丸い石が淡く、けれどしっかり夜道を照らすほどに橙色に輝いている。
「…ナイトパーティーがあるのでしょう?きっと会場はリベルタの陛下が灯りもご用意しているのでしょうけれど、夜道は暗い場所もある。折角の楽しい時を、暗闇のせいで転倒、などつまらないでしょうから…。」
 灯りを作りたくて。と嬉しそうに語る弟を見て、兄は柔らかく笑うと、すぐに深く息を吐いてから少しだけ眉を寄せて弟をジッと見つめて口を開いた。
「…価格と原価。」
「…」
「価格と原価。それから制作時間。」
「…質問がふえてしまった…うう…こ、これはほらあの宣伝用のようなものですから代金など…」
「原価。制作時間。」
「………おおよそ銀貨1枚。制作時間ひとつ辺り1時間。」
 執拗な兄の問い掛けに弟は観念したのか、ごにょごにょっと濁らせながら質問に答えた。それを聞くと兄は盛大にため息をついてから弟の額に手を伸ばし、バチリッと音を立てて指を思い切り弾いた。
「いっ…う…」
「リヤン、お前の腕を、お前の能力を安売りするなと昔から言っているだろ。宣伝用というなら原価は最低でも貰え。じゃなきゃ物を作る者たちにも失礼なことだぞ。」
「…申し訳ありません…」
 額の痛みに思わずうずくまり、両の手でそこを抑えながら涙目で謝罪を口にする弟を見て、シャンは苦笑をする。ゆっくり自らもしゃがみこむと、淡い桃色の頭を無骨な手で撫でてやりながら肩をすくめた。
「お前は優しすぎるし弱すぎる。主がいるときはそれでも良かったかもしれない。だが、一人で立って生きるなら情に流されるな。冷静にお前を見ろ。その上で、特別な者に情を無償で差し出すんだ。」
「…はい。」
「それは特別なものにとっても特別な情として感じてもらえるから。よっし、帰るぞ。」
 充分に反省をしたのを見て取ると、シャン・ドゥ・ギャルドは弟の荷物まで軽々と持ち上げていつもの様ににかりと笑って先に歩き出した。その様子をみて弟は慌てて後を追いかけて、兄から荷物をひとつ奪い返して隣を歩く。


「リヤン、星が多いぜ!見てみろ」
ふと、歩きながら兄が空を見上げて笑う。その言葉に少しだけ落ち込んでいた弟も顔を上げて目を輝かせた。
「わ…満天の星空ですね……幼い時を思い出します。」
「ん?」
 懐かしむように大きな目を細めたリヤンの言葉にシャンは何の話だと首をかしげる。思い出をたぐり寄せるようにリヤンは片手を星空へと伸ばした。
「『流れる星に三回願いをいうと、願いが叶う』…ムーが教えてくれて、僕らで流れ星に一度だけ試したじゃないですか。僕らが4つ、兄様が10の時に。」
「ああ!三回は間に合わないから三人で同時に言ったやつだな!」
「『僕ら三人、主様を見つけられますように。』まあ、ムーはちょっと奉仕先が不安定ですけれど…叶いましたね?」
 くるりと兄の方を向き直って嬉しそうに問いかける弟の頭をシャンはぐしゃぐしゃと撫で回して、そうだなと呟く。自分がどんなに主を見つけられなくても、この弟と、対の妹はなんの不安もなく見つかると信じていた。だからこそ、今シャンは真っ直ぐな姿勢のまま主に仕えきれているのだ。


 『アルフヘイム』へ向かう道のりを歩きながら幼き願いを思い出す。

―だめです、まにあいません―
―いっかいでもむずかしいな―
―んー…じゃあ同じ願い事三人で叫ぶか?―

 たどたどしい喋りの弟妹は兄の提案にそれがいいねと頷いて、その日見た中でひときわ輝く流れ星に、ぴたりと息を揃えながら兄弟で願った願い事。


「…あいつが帰ったらまた願い事するかー。」
「何をお願いしましょうか?」
 くすくすと笑いながら弟は頷いて兄の提案に首をかしげる。兄はそうだなと少しだけ考えてから弟が住まう宿の中に足を踏み入れた。ゆっくりと階段を上がり、二階の奥にある部屋へ荷物を運んでから決まったように口を開く。
「【俺らが幸せになりますように。】」
「……僕らですか?」
 誰より主を重んじるタイプの兄の願いにしてはいささかわがままなその内容に弟はきょとりと目を見開いた。シャンは不思議そうな顔の弟を見てニシシと笑いながら真意を告げる。
「少なくとも、俺ら三人は周りの人間が幸せじゃなきゃ幸せと感じねーだろ?だから周りが幸せになって、俺らも幸せになればいい。」
 主を亡くした弟も一緒に幸せになれる単純な言葉を探して、子供じみた答えを出す兄の言葉にリヤンは思わずぷはっと吹き出してしまいながら頷く。
「そうですね、それはいい願いだと思います。」
「だろー?」

「じゃあ、ムーが今度帰ったら、約束ですよ?」
「おう。あ、あと、リヤン、目の下のクマ。制作時間調整しろよ?」
「ぐっ…はい。」
「がんばれ。」
「はい。」

 荷を運んでくれた兄に弟は礼を言うと、店の外までその姿が見えなくなるまで見送り、部屋へと戻った。
 




きらきらひかるおほしさま
  どうかぼくらの
   おねがいごとをかなえてください 










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ギャルド兄弟のほんわか日常。

シャンは長男らしいところも一応あります。普段アホだけど
こんなところがあるからリヤンも妹も頭が上がらないのです。


ムーはシャンの妹でリヤンの双子の姉です。






みんなに幸あれヽ(´▽`)/  ☆彡








みそ








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