ここは、学園都市内のある高級ホテル。無能力者の俺なんかは一生縁のない場所なのに、なぜここにいるのかと言えば、あの近付きがたい輪の中にいるお嬢様のおかげである。

「ふえぇええ……たんぱ、じゃなくてみことってすごいんだね、とうま」
「そうみたいだな…俺も知らんかった」
「誘ってもらったのに?失礼極まりないんだよ」
「食い散らかしてるどこぞのシスターさんには言われたくないけどな」
「むっ、こういうのは食べなきゃ失礼なんだよ!」

そう、御坂である。
可愛いもの好きな彼女は、 最近この隣のシスターさんを見て癒されるのが日課になっていて、時々訪問してくるくらいだった。そんなわけで彼女と親しい間柄ということで、インデックスに常盤台の何たらパーティの招待状が送られてきて今に至る。つまり悲しいことに、俺はインデックスのおまけなのだ。

「ねぇ、とうま。みことにお礼言いに行きたいんだよ!こんなおいしいごはん食べさせてもらって、何も言わずに帰るなんてシスターとしていただけないことだもん」
「それは、上条さんもそうしようと思ってるんですがね、どうにも……」

あの輪の中に入って行くには少々気が引けた。御坂の周りには常にどこかのお偉いおばさんやおじさん、それに若手の起業家みたいな人までいて、さらに表向きは常盤台理事長の孫だというあの海原の姿まである。御坂も御坂で値の張りそうなドレスを着て、上品な笑顔で受け答えなんかしているものだから、余計に近付けない。普段の自販機を蹴り飛ばして電撃をぶちかましてくる女の子の姿はどこにもなくて、御坂が遠く感じた。

(うーん、どうにか御坂に話しかける方法は……)

「あ、とうま!みことがどこか行くみたいだよ」
「よし、追いかけるぞ。お礼言わないとな」
「うん!」

インデックスが少しめかし込んでヒールを履いてるため、うっかり転ばないように注意しながら御坂の後を追う。
このとき、彼女がお手洗いでなくて本当に良かったと今さらながら思うが。そうでなかったら、俺だけ電撃を浴びせられることになったはずだ。いや、その方が良かったのか?
しかし、その時はお礼のことばかり考えていたのだから仕方がない。彼女が会場を出た理由なんて考えもしなかったのだから。

「とうま、みこと部屋に戻るみたいなんだよ」
「お、おう!入る前に御坂を、」

呼び止めようとして、タイミング悪くエレベーターの扉が開いた。
何か疚しいことをしているわけでもないのに、自然と来た階段の陰にインデックスを引っ張って身を隠してしまった。これは、もう癖になってしまっている。

(何で隠れるのかな!?とうま!)
(いや、何となく……ん?)

ちら、と御坂のいた方の廊下を覗くと、御坂と誰かが話しているのが見えた。これはまさか、逢い引きとかいうやつか。
インデックスと二人で身を乗り出して、目を凝らす。この時点で「疚しいこと」をしてしまっているが、そこはご愛嬌である。

「ーー…あんたも来てたんだ?」
「オマエがクソガキに招待状送り付けてきたンだろォが」
「でも本当に来るとは思わなかったもの。ま、9割来るに賭けてたけどね」

その相手というのが、何と驚くことにあの一方通行だった。スーツ姿でも、特徴的な白い髪と赤眼が遠くからでも彼だとよく分かる。でも御坂とは仲が悪かった気がしたけれどーーまた妹達に何かあったのだろうか。ここまできてやっぱりオチは不幸らしい。

「それで?会場戻るならそっちよ。お手洗いはそこの突き当たり。お酒でも飲んで酔っちゃった?学園都市の第一位さん?」
「あァ?オマエこそ頭イカレてンのか?この俺がわざわざ女の部屋まで来てやってる意味分かってンだろォなァ」
「そーゆー駆け引きって、どうでもいいのよね。……ねぇ、」

挑発的に笑ってみせた御坂にドキリとしてしまう。御坂ってあんなに美人だったか?
いやいや、御坂を綺麗だと思うなんてロリコンにはなりたくない。
それに齧り付いてくるインデックスもそうだが、御坂は一方通行のネクタイを掴んで臨戦状態である。ケンカなら止めなければ。いざ飛び出そうとして、

「キス、してよ」
「……随分盛ってンじゃねェか。発情期か?」
「いいからしろ、しなさいって言ってんのよ。あんなにあの子達といちゃついてるとこ見せ付けて煽っといて、何もしないつもり?」
「別にいちゃついてなンざいねェが……ったく、もっとかわいくオネダリできないもンかねェ」

えええええええっ、と予想外の展開に奇声を上げたい衝動を抑える。御坂も一方通行も、とてもそういう関係を持ちそうにないイメージがあったから。しかし、お互い超能力者で、さらに申し分のないことに美男美女ときたら絵になる。お似合いだなあ、と思ったりもした。
…ただ、その、上条さんにはシゲキテキすぎました。そしてこの隣のシスターさんにも。

「と、とうま……」

(いやいや、どうしてあなたまでそんな顔をされてるんでせう!?)

二人の熱が移ったように、インデックスは頬を赤く染めてほんのり涙なんか滲ませている。もちろん、彼女は無意識でそれは羞恥からの表情なのだろうが、ほんの少しでも「かわいい」と思ってしまった自分が恨めしい。
とにかくこの場から逃げ出さないと、何か間違いを起こしてしまいそうだ。

ところが、立ち聞きなんて趣味の悪いことをしていた罰のように、インデックスの手を取って急がせた足は、カーペットに引っ掛かりつんのめってしまう。咄嗟に手を着いて、

「「っ!!」」

ああ、神様。なんて意地悪なのでせうか。目と鼻の先には、エメラルドグリーンの大きな瞳。白い陶器のような肌。その下のーー。

(うわ……何というかこれは……、じゃねえ!)

「わ、悪い!インデック、ス……」

本日二度目の噛み付きを覚悟したところ、いつまで経ってもあの親しみある痛みが来ない。そっと顔を上げてみれば、インデックスは俯いたままだった。

「えーっと、インデックスさん?」

何か悪い物でも食べたのか?
しかし様子を窺おうとして伸ばした手は、叩き落とされてしまった。

「ご、ごめんなさいなんだよ!」
「え、えっ?おい、インデックス!?」

その逃げ足たるや速すぎて、追い掛けるタイミングを逃すほどだった。というか、逃げられるって何か気に触ることでもしてしまったのだろうか。しかも手まで払われて。

「あぁ……不幸だ」

翌日になってもインデックスは、布団にくるまって鉄壁を築いていた。会話すらしてくれないし、あんなに大好きな三度の飯も食べない。

「お前らのせいだー!」
「何がよ?」
「何だよ」

あれは、夢の中の出来事だったかのようにいつも通り歪み合う御坂と一方通行。それでも、御坂が何かと襟首を気にしているのに気付かない俺ではない。
むしろ、夢だったら良かったのに。そう思わずにはいられなかった。






end.


宴の夜の夢


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