コロセウムで待ち合わせ




「ったく、なンだってこンな場所でよォ……」

少年お得意の舌打ちがテーブルを通り過ぎて行ったウェイトレスを盛大に震え上がらせた。こんな場所、とは客の九割が女子学生で占められているカフェテリアである。更に間の悪いことにギャアギャア騒ぎ立てる並みの女学生でなく、一流のお嬢学生ばかりが淑やかに談笑しているのだ。
ふと脳内に浮かんだ凡そお嬢様らしくないある少女も確かその類いだったと脈絡のないことを考えたところで聞き慣れた声が後ろから聞こえた。

「じゃあ、このはちみつキャラメルサンデーで」
「あァ?」
「え?」

一方通行の隣のテラス席に座っていた女学生は彼を見るなり目を見開いて驚いた。そして数分後にはその美人という部類に属する整った顔は彼の正面で眉間に皺を寄せていたのだった。

「何でアンタがいるのよ……」
「それはこっちの台詞ですゥ。しかもなンだ、その…見るからに気持ち悪ィクソ悪趣味なタワーは。学園都市はメルヘン症候群でも流行ってやがるンですかァ?無駄にメルヘン増やしたところでウゼェゴミが増えるだけだろォが」
「なっ…可愛いでしょ!?見るからに気持ち悪いクソ悪趣味はそっちじゃない!こんなお洒落なカフェでコーヒー一つって、有り得ないわよねえ?まさか第一位が金欠?」

御坂がひくりと頬を引き攣らせて猫のような作り笑いをすると、一方通行も泣く子も黙る恐ろしい笑みで対応する。テラスが一転して罵詈雑言の飛び交う戦場と成り果てた。

「んで、またあの子の買い物に付き合ってられなくなったって?」
「まァな。女ってのは買い物が恐ろしく長ェ」

通りの向こうで小さな少女が店内を見て回っていた。年頃の女の子らしい幼い笑顔がとても可愛いらしい。御坂は幼い頃の自分も同じだったのだろうかとぼんやりと思った。しかし、その思想は少年の「クソまっずィコーヒー」などという心ない愚痴にぶち壊される。

「アンタねぇ……私がずっと憧れてたカフェでまずいとか悪趣味だとかケチつけて、せっかくの雰囲気が台無しじゃない!」
「まずィモンをまずィっつって何が悪いンですかァ!?それとも超電磁砲サマが啼くほど美味しいコーヒーでも提供するっつーなら話は別だがなァ!」
「はっ、やってやろうじゃないの!」

ヒートアップした末に蹴り上げた椅子がそこらに転がっているが二人は全く気にも留めていなかった。半分以上中身が残されたカップがガチャンと派手に音を立てる。
用は済んだらしい打ち止めを見て、一方通行が店外に出る前に彼の頬を何かが掠って壁に爆音と共に穴を開けた。この派手で荒っぽい能力は彼女のものだ。

「覚悟しなさいよ。アンタが美味しいって言ったときは何でもしてもらうから」

御坂の得意気に吊り上げた形の良い唇が不敵に笑う。

「面白れェ。楽しませてもらおうじゃねェか」

壁の修理代が気になるところだったが、コーヒーの不味さに免じて仕方がないことにしておいた。支払いは余分に済ませたし問題はない筈だ。
店先で待っていた打ち止めがぴょんぴょんと跳ねてこっちだと合図を送っていた。

「遅いよーってミサカはミサカは愚痴をこぼして……あれ?何か良いことあったのってミサカはミサカはアナタの異変に気付いてみる」
「なンでもねェよ」

さて、御坂が彼好みのコーヒーを見つけて来るが早いか、それとも諦めるのが早いか。この勝負の行方は学園都市第一位の頭脳をもってしても予想はつかなかった。






end.
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110515

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