※一方さんがヤンデレかつ変態くさい





あの夜の喪失感と言えば、本当に身体の内から重要な臓器が欠けたようだった。あれほど「一人にしない」と言っていたのに。

「はい、あなたってミサカはミサカは初めて淹れたコーヒーを差し出してみる」
「なァ、第三位はいねェのか」
「見つかってないよー。そんなにお姉様が気になる?ってミサカはミサカはヤキモチを妬いてみたり」
「コンビニでも行ってやがンのか。着いてくっつったのによォ」
「えと、あなた……?」
「あァ、オマエのが聞き分けイイのになァ。悪い子には仕置きしなきゃなンねェよな」

本当に髪質まで似ている。少し困惑した泣きそうな表情も。
目の前のコーヒーは、どうしようか。もう一度飲んではみたが、甘過ぎてとても喉を通らずに洗面所に吐き出してしまった。また後で、あいつに淹れさせよう。

あいつの淹れるのは、もっと酸味と苦味があって癖があるのに一日に何杯も飲みたくなる味だ。もうあれでないと舌が、胃が受け付けなくなっている。
あれは恐らく毒だ。俺を飼い慣らすための中毒性のある麻薬みたいな毒。

嘔吐したせいで煩くなった心臓を諫めるためにした深呼吸は寝具に染み付いた匂いを嗅ぎ出してしまった。自分のものではないどこか甘酸っぱい、女の匂い。一呼吸するともっと欲しくなって顔を埋める。すっと吸い込んだ匂いが肺一杯に広がってカラダが意思とは別の反応をする。
もっと壊してやればより興味深い顔をするのだろうか。全身が麻痺するような声を上げるのだろうか。
ベッドに放っておいた制服の飾りを鼻に押し当てると全身が震えて解放感と共に頭が白く染まった。




* * * * * * *



「なァ、『超電磁砲』知らねェ?」
「ぐ、がッ……!」
「レールガンだよ、レー・ル・ガ・ン。質問に答えてくれませンかねェ?」

喉を絞めてれば答えられないか。パッと手を離すと女は面白いくらいに血を吐き出した。クソガキが風呂に持ってきた湯を吹き出す動物型の水鉄砲の玩具によく似ている。もう一度、踏みつけてやれば壊れた機械みたいな音がした。鼓膜が痛い。

「なンだ、慰めてくれてンの?だがなァ、コレとアイツじゃ比べモノになンねェよ。アイツはさァ、」

ゴシャ、と音がして靴底にゴツゴツとした固い物が幾つも刺さって砕けた。

「もっとキレイな声で啼くンだよ」

ぐちゃりぐちゃりと血溜まりを踏みつけて表通りに出ようとしたとき、ポケットに入れていたケータイが鳴った。あいつかと思い、急いで取ったところ聞こえてきたのはあいつに似ているけれど似ていない高笑い混じりの声だった。

『ぎゃは☆今日も愛人とナカヨクしてるみたいじゃん第一位。ところでさー、おねーたま見つかったよん。最終信号は隠してたみたいだけどね。でもミサカはこっちのが楽しかったし』
「楽しかった……?」
『ミサカが言ってやったんだ。「おねーたまがあの人を壊したんだよ」って言ったら、おねーたま可愛い声で泣き出しちゃってさ、ゾクゾクしちゃった。あいにく、あなたはもう壊れちゃってるし、』

ペラペラとよく喋る女との通話を切る。
捜すのはもうやめだ。後は自宅で待っているだけでいい。



嗚呼、もう何年振りかの会瀬のようだ。
逸る感情を抑えて、あの日通りにソファーに寝転がる。廊下からコツコツと甲高い靴音が聞こえて、扉が開いた。暫くして玄関から差し込んでいた光は全て扉の向こうの世界へと押し出される。

「一方、通行ッ……!」

凛とした声が僅かに震えている。こいつは優しいから自分の犯した過ちを悔いているのだろう。「こいつを一人にしなければよかった」と。その通りだ。
だから、これは罰だ。

「なァ、美琴。ずっと一緒にいてくれるンだよなァ?」

するりと細い足に指を這わせる。ばきっ、と小気味の良い音が耳に心地好い。そして望んでいたこいつの声。

「はは、嬉しくて泣いちまいそォだ」

喘ぎ混じりの声で美琴は何事かを呟いたが、俺の耳には届かなかった。多分、どうでもいいことだった。



Atara-xia


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120821
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