死刑カクテイ判決




『私は今、ここで何をしているのだろう。』

この程度の文章なら1秒未満で英語にも訳せる。答えは、

――What am I doing here now?

冷静なもう一人の御坂美琴がそんな下らない事を考える。おかしな話だ。私は一人しかいないというのに、ある種、冷酷な自分と怒り、憎しみ、惑い、そして何かが綯い交ぜになった訳の分からないぐちゃぐちゃな自分と、2人が存在するなんて。
私はこの目の前の男に確実な感情以外のそれを抱く筈もないのに。

「……何なのよ」

帰宅途中、路地に引っ張り込まれて壁に押し付けられて。当然、能力だって反射的に使った――そう、反射。学園都市で第一位を誇る能力。

「今さらアンタに負けたこの私に何か用?人違いなら名乗って差し上げましょうか。妹達でもあの小さな子でもない、私の名前は、」
「御坂美琴。学園都市で第三位、通称『超電磁砲』でレベル5の一人。ンなこと分かってンだよ」
「だったら尚更よ!」

ああ、本当に憎らしい。こいつが私の名前を記憶してること、妹達と間違えないこと。
後ろ姿なんかで見分けられるなんて相当だ。第一、街中であの子達と出くわした私でさえも一瞬どきりとするものなのに。

「当然だよなァ。自分と同じ顔した人間を何万とぶち殺した張本人を憎むのは」
「…そうよ。だから離せって言ってるじゃない」
「だが同情もしてンだろ、オマエ」
「は…な、なに言って、」
「あァ、あと一つ。優しさって何なンでしょうねェ?優等生の御坂さン?」
「っ!」
「カワイソウになァ……産業廃棄物並みの量の優しさが人殺しにまで向くとは、いっそベクトル操作してやりてェけどよォ」

こいつは知ってる。私より私を。
何もかも許せるほど慈悲深くなくて、けどあの時よりずっと一方通行を憎めなくなった。それが甘さだか優しさだか分からない。けど、私は憎んでなくちゃいけないのに。恋は同情から始まる?そんなこと知ったことじゃない。馬鹿馬鹿しい。

「まァ憎しみは愛情の裏返しってンだろ?これから仲良くしようじゃねェか」

薄暗い路地で一層影を濃くしていた束縛が解かれた。何か物理的にされていたわけではない。ただ一方通行は私の背にしていた壁に手を突いていただけ。それだけで私一人なんか、こいつは殺すこともできる。

だったら何で、何のために――?愛情が云々とか何だか知らない。私の中の私はぐちゃぐちゃで、こいつに崩された。じゃあ一つだけ残った、この感情はなに?

「……だったら、」
「あァ?」
「アンタはどうなのよ……。私のこと、どう思ってんの」

耳障りの悪い笑いが狭い路地に響く。狂気的な深紅の瞳がさも愉しそうに笑っていた。

「憎いに決まってンだろォが」

そう告げて、一方通行は街中に消えた。これから帰る場所に今のあいつの影は微塵もないのだろう。私も帰らなければ、と放り出された鞄を拾ったのはそれから数分経ってからだった。

一方通行のいなくなった路地。崩された私じゃない私はあいつと同じように笑って何でもないように真実を告げた。抑揚のない、恐ろしく冷たい私の声で認めたくないそれを脳に染み付くほど静かに。



end.
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110515

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