(ああ……もう何回目の夜なんだろう)

自虐と安息と独特の後悔と気怠さ。
またやってしまった。
独りで日中の始終に思いを巡らせるこの時は決まって吐き気を催してしまう。喉奥まで込み上がった酸っぱいにおいを飲み込んで、慌てて白磁の背中に唇をくっ付ける。それだけで嘔吐感が嘘のように消えた。もはや「びょーき」だ。美琴は頼りない背中に擦り寄って自らを嘲笑った。
正義感の強い優しくて頼れる「お姉様」を知らないのは、美琴の知る内で一人だけだった。幸運なことに男も、何かに飢えている眼をしていた。その日から互いに依存していった。

(……よく寝るのね、こいつ)

汗で濡れた白髪に手を伸ばそうとして躊躇する。性的な愛撫以外は御法度のはずだ。わざわざ取り決めなくても沈黙のルールでそうなっている。しかし、寝ているうちは何をしても悟られることはないだろう。髪を撫でることも、薄い唇にキスをすることも、その行為に込めた感情も。
本当は宝石のように赤くて綺麗な瞳をまっすぐ見て、気持ちを伝えたい。手を繋いだり、抱き合ったり、時々喧嘩をしたり、そんなどこにでもいる恋人同士がすることをしたい。叶うならば。

(そもそもの始まりが間違ってた。あのとき私がアイツを見失わなければ、二度と顔を合わせることもなかった。だったら、この恋は……)

音を立てないようにするり、とベッドを脱け出して足下に散らばる衣類をかき集めて一つ一つ身に付けていく。ブラウスのボタンが二つ程度、スカートのホックの部分が引き千切られて無くなっていることには目を瞑る。それも彼なりの美琴への感情だったのだ。
渡されたものは何一つない。いつも美琴が電子ロックを抉じ開けていたし、プレゼントされたものなどない。

「……じゃあ、ね。ばいばい」

もう一度だけ髪に唇を落として部屋を後にした。






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120821
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