某大学に所属しているとある少年、海原光貴は上機嫌だった。と言っても、この少年は年中、不機嫌な様子を見せることは一切なくて、同僚にも「海原ぁー、溜まり過ぎてんじゃないかにゃー?」と言われてセクハラをされたので、とある槍で臨死寸前まで追い詰めたこともあったくらいだ。
しかし彼も人間である。隠しているだけで不機嫌な時もある。

そして今日は、その滅多にない不機嫌デーでなく本当に機嫌が良かった。夏の暑さも室内にいれば、何のことはない。
毎日通っている図書館では面白そうな本も見つかった。

(あぁ、そういえば1年の女生徒から手紙をいただいていましたっけ)

擦れ違った女生徒に軽く手を振り返しつつ、海原は記憶を辿る。見た目の好青年らしい爽やかさと落ち着いた物腰のおかげで、女子生徒からの人気は高く、性格破綻者ばかりの生徒会の中では常に二位を飾っていた。
恋文を受け取ることも少なくないが、彼はその中の誰にも興味を抱くことはなかった。

(彼女達にはない、強さと優しさを兼ね備えた女性はどこかにいないのでしょうか?)

物思いに耽っていたからだろう。海原は廊下を曲がってくる人間に気付けなかった。

「わっ」
「すみません、自分の不注意で……大丈夫ですか」

ぶつかってしまった『青年』は、海原の差し出した手を借りずに自分の力でさっさと起きてしまう。おどおどした態度は新入生だからだろう。
海原より少し小さめの背丈と目深に被ったフードから覗く柔らかそうな茶色の髪は少年のようだ。

「あ、あの……!海原光貴さんですか!?」
「ええ、まぁ」

海原の名前を聞けば、殆どの人間はこの少年のような反応を示す。この大学は、宗教色が強く、自然とトップに立つ人間を崇める生徒が多い。そのトップに立っているのは自分なのだから致し方ないか、と苦笑しながら応えた。

「……じゃあ、貴方が生徒会の副会長さん、ってことでいいのよね?」

『青年』の違和感を感じ取った時には、手遅れだった。いつの間にか彼の手に握られていた漆黒の鞭が目にも止まらぬ速さで伸びてきて海原の身体を拘束した。魔術で槍を生成しようとしても間に合わない。

「あー、抵抗しない方が身のためよ。次はそんなんじゃなくて、電撃。食らわせちゃうわよん」
「くっ……自分への刺客ですか、それともこの大学への刺客ですか?」
「この場合どっちかしら?ま、第一位サマの命令だから私はどっちでもいいけど」

彼は、被っていたフードを暑苦しそうに脱ぐと結んでいた髪を解いた。
その時、彼女の全貌が明らかになる。
ショートボブだった髪は肩先まで下りて、前髪から時折バチバチと紫電が跳ねている。隠れていた顔は、街で擦れ違う数多の人間が振り返りそうなほど整っていて鳶色をした大きな吊り目は少し冷めたイメージを抱かせ、一方でいたずらっ子のような愛らしさもある。

要するに、海原少年が一目惚れするには十分な要素を持った少女だった。

「……貴女は、あちらの大学の生徒会の方だということですね?昨年の顔触れにはなかったということは、新入生ですか」
「そう、私は序列第三位の御坂美琴。挨拶代わりに生徒会狩りしてこいって一方通行に、」

それ以降の言葉が美琴嬢の唇から続けられることはなかった。なぜなら、海原が拘束されたまま彼女の手を両手で握ったからだ。

「貴方があちら側でも構いません。御坂さん、自分とお付き合いしていただけませんか?」
「……は?お、お付き合いって地獄の底まで連れてってやる、とかそういう受けて立つぞっていう解釈でいいのよね?」
「いえ、恋人同士の交際の方で。死ぬまで共に在りたいという意味ならそれでも遠くはありませんが」
「え、えっ?」

薄暗い廊下にいるというのに、海原の背負うオーラは眩しい。大概の女性が羨望の眼差しを向ける彼に抱いた美琴の感情は、

(うぅ……この人、苦手だ)

とりあえず。
握られていた手を何とか振り切って、ケータイを素早く操作した。

「あ、一方通行……何か変なのにつかまっちゃった、みたい……」


ショーで見つけたシンデレラガール




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