ホワイトカラーの思惑









「オイ」
「……」
(まァたシカトってかァ?何時まで続くンだよ)

昼からずっとこの調子だ。今日は3月14日、ホワイトデーなる日らしい。「らしい」と言うのは、色恋沙汰に全く興味が無かった俺にあのガキがしつこく、来週は何の日か、明後日は何の日か、明日は――と聞いてきたからだ。
とにかく、こいつから半ば強引にチョコレートを奪い取った身分としては、返すものは返さなければならない。とは言っても生まれてから研究所詰めだった男に女の好むものが分かるはずもない。
そういうわけでガキどもにはありきたりだが洋菓子を渡して(しかし、これもまた選ぶのに苦労した)、こいつには後で好きなものを選んで貰おうと思ったが、すこぶる機嫌が悪い。
ハァ、と溜め息を吐くと番外個体も適わない鋭い視線が向けられた。

「……面倒くさい女だ、とか思ってんでしょ」
「ちっとはなァ」
「ふん、どーせ私は打ち止めや番外個体達みたいに聞き分け良くない子どもですよー。胸だって将来の見込みもない貧乳女ですよ!AAで何が悪いのよ!ええ!?」
「何も胸のことは言ってねェだろォが」
「だって分かってるもん。男はみんな、あんな脂肪が好きなのよ。あんただってそうなんでしょ。そんなに好きなら自分も付ければいいのよ…!」

逆ギレの上、泣きを入れるとは忙しい女だ。こういう目まぐるしく変わる表情を見ているのは飽きないが、今はそれどころではない。
こいつがこんな不機嫌になった理由を探る必要がある。今朝、来たときは上機嫌で鼻歌すら奏でていた。それが昼頃にガキどもが来て――。

「…オマエ。もしかして…」
「ち、違うわよ!?あんたからお返しもらえなかったから怒ってるとかそんなんじゃないんだから!勘違いしないでよね!」
「そォです、にしか聞こえないンだが気のせいかァ?」
「うっ……」

あからさまな否定イコール肯定。
女ってのは分かりやすいんだか分かりにくいんだか、よく分からない。

「だって仕方ないじゃない…。あんた、本命贈ったってうんともすんとも言わないし、今日なら何か言ってくれるのかな、と思ったのに何もないし…。……ねぇ、一方通行。あんたは、私のこと――」

多分、俺は気付かない振りをしていた。と言うよりも、こいつがこうやって聞いてくるまで言う勇気が無かった。あのチョコレートが何を意味していたかも知って、わざと何も言わなかった。ヒーローなんかじゃない、ただのどっちつかずな人間だ。
それでも、今この目の前の女の問いに答える義務はある。

「何とも思ってねェならこれほど悩まねェよ、バァカ」
「……それ、本気?」
「こンな局面で嘘言ってどォする」
「じゃ、じゃあ、あんたと私はり、両想いってことでいいの…?」
「まァ…世間じゃそォなるンじゃねェか」

聞いておいて赤くなってどうするんだ、こいつは。聞かれるこっちの方がどれだけ恥ずかしいことか。どうにもこういう肌に合わない空気は苦手だ。それは相手も同じように感じているらしく、落ち着きなく指の節や爪に触れてくるが、それは無視しておこう。

「あ、そ、そういえば、番外個体からチョコレートもらったんだけど、食べない?」
「あ、あァ……ン?」

このどうにも心臓のざわつく空気を何とかしたくてイエスと言ったはいいが、「番外個体からチョコレート」。このフレーズは怪しすぎる。あいつは気を利かせて他人にチョコレートを買う女(タマ)か?
――否、他人をからかって楽しむことを生きがいにするような性悪だ。
よって、その「チョコレート」は、

「待て、それは……!」

(アー……まァ、そォなるわな)

いくら「お姉様」と呼ばれようが、中身は普通の中学生だ。好きな男がいても(腹の立つ話だが)そこまで進展することはよほどのことがなく、「それ」をお目にかかることはないだろう。
「それ」とは、つまり避妊具のことで。第三位はそれを見たまま、硬直しきっていた。チョーカーにスイッチを入れながらさり気なさを装って一応、声を掛けてみる。徒労だろうが。

「悪戯にしちゃ悪質すぎるが、必要なもンだしオマエも落ち着いて、」
「ひ、必要なって、それって…!ふにゃー」

初めての「デート」というやつの場所は、どうやら電化製品店になりそうだった。





end.



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120315

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