絶対低温テンパリング






バレンタインデーなんかくそくらえ。なんて思っていたのに、どうして手作りチョコレートの本とにらめっこしているんだろう。

『お姉様!明日って一方通行いる?ミサカはミサカはチョコレート渡したいんだ!』
『おねーたまが作んないならミサカが第一位に渡しちゃおっかなー。べっ、別に好きとかじゃないけどね!』

打ち止めも番外個体も贔屓目なしに可愛いなあと思ってしまういじらしさがあった。あんな可愛い子たちに迫られたら、いくら家族だと豪語するあいつだって堕ちちゃうんじゃないか。そうに違いない。だって私の可愛い妹達だし。
そういうわけで慌てて雑誌を買って準備を始めたのだけれど、ぐるぐると生地を混ぜているうちにいろいろな考えが巡り始めてしまった。

そもそもあいつが受け取ってくれる保証なんてどこにもない。いかにも、いらねェ、なんて突き返してきそうだ。そうしたらさすがの私だって涙の一つも零してしまうかもしれない。
というか何でバレンタインデーなのに、こんなセンチメンタルな気分になっちゃってるんだろう。
ホイッパーで泡立てた生クリームがボウルにぼたりと落ちる。

「あいつ、甘いもの嫌いだったよね……」

「嫌いじゃねェよ、甘過ぎなけりゃなァ」
「っ!?あ、一方通行!?」

耳元で聞こえた声に驚いて振り返ると、至近距離で赤い瞳と視線が合った。たぶん気付かれてしまっているだろうけど、背中で調理器具やらを隠す。

「だっ、誰もあんたのために作るなんて言ってないわよ。これは、その…そう!黒子たちのために作ってるんだから」
「あァそォかい。じゃァ砂糖控え目で頼むわ」
「だからあんたのためじゃないって、……もう」

言いたいだけ言って後は知らんぷりなんて、ほんとにずるい。そんなこと言われたら作るしかないじゃない。「しょーがないわね」と素直でも何でもない言葉を吐きながら、私はにやける顔を隠すことができなかった。





end.



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120214




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