「おはよう。目覚めはどう?」
「……触ンな、女A」
「あら、冷たい。一夜を共に過ごしたんだから名前で呼んで欲しいわね」
「テメェの名前なンざ覚えてねェよ」
赤髪の少女は、少年の暴言を気にする様子もなく、むしろ楽しそうに笑った。
「私は覚えてるわよ。学園都市に縛られた可哀想な第一位――名前を捨てて能力名を通り名とする『一方通行』。15年前に両親に捨てられ、」
「それ以上ほざくと一時間後に人肉がとあるマンションから見つかったっつーグロい報道が都市中をジャックすンだろォなァ」
「能力制限されたあなたにそれができるかしら」
「俺が弱くなろうとテメェは雑魚に変わりねェよ。せいぜい100対1が99対1になったくらいだ」
少女の表情から笑みが消える。少女が手に握ったコルク抜きを転移させようとしたとき、テーブルの上の黒いケータイが味気ない音で鳴った。一方通行は、躊躇することなく通話ボタンを押す。
『はっあーい、第一位元気ぃ?』
「30字以内で用件を述べろ。じゃねェと、ぶっ潰す」
『やけに不機嫌ねぇ。例の女と逢い引きってかぁ?裏じゃあ第一位が上手いって話だし今度私も混ぜてよ、っつー冗談は置いといて、アンタの愛しの電撃姫がお呼びよ』
「……すぐ行く。場所は」
『構内のカフェテリアだって。それじゃ、バイト代あとで払えよ。それと――御坂にこのことバラしたらあの子、どうするかしらね』
「テメェも同じだろォが」
『ま、私とアンタだけじゃないけど。とにかく、さっさと来い』
ぶつりと強制的に切られたケータイをベッドに放り投げた。それから、いつも通りモノトーンの服を着て玄関を出る前に漸く気付いたとばかりに少女に振り返った。
「俺が帰るまでに消えてろよ、女A」
その後は見向きもせずに、ドアが乱雑に閉められただけだった。
「カワイくない男。……それにしても第三位、ねぇ。結構かわいいじゃない」
ケータイに映る笑顔の少女を見て、結標は整った顔を歪めて微笑んだ。
funny spice
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