彼女が意地っ張りで強がりで他人に弱い部分を見せない性格だということは知っていた。誰をも必要としなくとも生きていける、そんな天才的な人間なのだと多くの人間は誤解するだろうことも。
一方通行は、それを非難するつもりはなかった。ただ、自分の前で虚言を吐かれたり、同じ笑顔をされるのは堪らなく心地が悪かった。

「……オイ」

聞こえるのは、耳元で繰り返される浅い吐息だけ。催促するように突き上げると砂糖菓子並みに甘い声が彼女の唇から漏れた。
美琴は、行為中に顔を見られることを嫌っていた。羞恥からなのか、それとも意地なのか。一方通行にとってはどうでもいいことで、普段は真面目で社交的で誰からも慕われる彼女が、性欲に溺れる背徳的な表情を見たいだけだった。脳の弊害で、彼女から受け入れる方法でしかできないと嘘を吐いたのもその為だ。しかし、その策略が成功することはなかった。

「だっ、て…ゃだ……!」
「オマエなァ…こっちの身にもなってみやがれ。それともあれか、いやいや言っても本音はイイってやつか?」
「〜っ」

甘えるかのように首筋に鼻先を押し付けてきたり、背に爪を立てて必死に縋りつく様子は思わず髪を撫でてやりたくなるほどだったが、視界に映るのは色のない室内だ。五感で感じ取れるのは、彼女の髪から香るシャンプーと汗の混ざった匂いと、幾度となく締め付ける胎内の温かさ。知らない女でも抱いているようで、彼は不満を募らせていた。ハァ、と一つ溜め息を吐くと美琴は小さく身体を震わせた。

「オマエが、そォやって強がるのは、アイツにしか弱みを見せたくねェっつーことか」
「!ち、違っ…」
「違ェなら俺を見ろ。アイツと重ねられてちゃァ気分悪ィ」

ぎこちなく解かれた手は肉付きの薄い一方通行の肩を掴む。暖色系の照明に照らされた彼女の表情は想像以上に普段の面影がなかった。涙の滲む鳶色の瞳や淡く染め上げた頬、熱い吐息の漏れ出る赤い唇。溶けてしまいそうな表情の全てが彼を煽っていた。
そこに喘ぎ混じりの甘い声で名前を呼ばれたとき、一方通行は美琴を押し倒していた。例の嘘がばれることも構わずに。

「あんたウソだったの!?バランス取れないからお前が、いぃいいれろって、ぁ、ま、まって、待ってってば!ぁん!」
「あァ?聞こえねェなァ。『狼には気を付けろ』って習わなかったンですかァ?優等生の美琴ちゃン」
「っこの、詐欺師っ……あああああ!!」
「ハッ、イくならちゃンと言ってからイけよ」
「や、んぁ…そん、なこと……!」

言えないとは分かっていても美琴の身体は既に彼女自身ではなく一方通行の配下にあった。手に取るように美琴が戸惑っていることが分かる。悩む隙さえ与えない為に片足を肩に、奥まで押し入れるように体重を掛けたとき、彼女の膣内がきつく締め付けた。
その心地良さに耐えながら先の報復のように演技がかった優しい声で彼女の名前を囁く。

「ぁ、一方通行、イく、イっちゃ……あぁああん!!」
「っ、」

美琴に促されて達した一方通行は欲望を吐き出した後、襲い来る情事後特有のけだるさと眠気に苛立っていた。何よりも、同年代の男に随分と劣る体力を思い知らされるからだ。
一方の美琴は、あんな恥ずかしいことを言わせるなんて、と背を向けて臍を曲げていた。

「別に減るもンじゃねェし問題ねェだろ」
「問題ある!あれじゃあ私がい、い、いんらっ、」
「イイから来い。寝ンぞ」
「え、もう寝るの?」
「『今日は』な」

珍しいと訝しがりながらも美琴は一方通行の腕の中に滑り込んだ。含みのある言い回しにも気付かずに。
時計はまだ23時40分を指していた。今日が終わるまであと20分。







狼少年とリベラリズム



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