死灰と涙から生まれた魔女 | ナノ



死灰と涙から生まれた魔女











僕の宿命は、『海原光貴』として生まれたときから決まっていた。彼女と出逢って、その儚い優しさだとか弱さを秘めた強い瞳だとかに惹かれて、彼女を愛した。ただ一番に願うことは、他の男とでもいいから幸せになってほしい。それだけだった。罪深き人間である僕には彼女を幸せにすることなど出来ないのだから。けれど彼女も大概、可哀想で難しい恋ばかりしている。一生に科せられた罰でさえ愛しいと思っていたのに、彼女が飛び込んできてくれることをいいことに禁忌を犯してまた罪を重ねる。それで十字に架けられて、火焙りにされても構わなかった。

いつものように無言でエントランスにやってきた彼女は座ったまま身動ぎ一つしない。唇は糸で縫ったかのように固く引き結んでいた。

「どうしました?」

分かっていて聞くことは、愛を知らない他人から見ればさぞ愚かしいことだろう。しかし、お飾りの内容などどうだっていい。彼女の声が聞きたいだけ。

「…あいつね、人形みたいなの。私が好きだっていうから好きって返す、私が愛して欲しいから愛してくれる。だから本当に私のこと好きなのって、ばかみたいにケンカしちゃって」

彼女も聡い女の子だから分かっているのだろう。彼も頭は良いから形だけの愛し方は上手くできる。上手に、まるで事務作業のようにこなす。だからどうしても彼女と彼は、愛しているのに互い違いになって一方通行になってしまう。どこまでいっても平行線で、愛し合うことができない。

「付き合ってるのに、片思い、みたいよね…」
「…御坂さん」
「っ、ごめん」

上手にあいつを愛してあげられなくてごめん。貴方を好きな僕を利用してごめん。その懺悔に胸を裂かれるのも何度目のことだろうか。
彼女が哀しむならその涙を拭って、何時でも貴方の味方ですから、と髪を撫でて。王子様の元に返す魔法使いでいい。
――と思っていた。だけどこれ以上彼女が傷付くというのならば、この戒めを解いても許してはくれないでしょうか、神様。

「貴方は何を恐れているのですか」

窓越しにその姿に問いかけた。奥底で殺した嫉妬に動けないでいる哀れな王子様、の皮を被った男。

「彼女を傷付けるのが怖いんですか?それは本当に彼女を傷付けたくないからですか、それとも彼女に見るあの少女を傷付けたくないからですか。それとも傷付けて、あの少女と同じ顔の彼女に拒まれるのが怖いからですか」
「それを知ってどうする?俺からそいつを奪うなンざできねェだろォが」
「何故でしょう?」
「優しすぎるくらい優しいからだ、オマエは」
「優しい人間に人は殺せませんよ。それに僕の優しさは作り物ですから」

――それでもそいつに対する優しさは本物だ。
そう彼は言った。馬鹿にしようとして、上手く笑うことができなかった。優しすぎるのは貴方の方なのに。

「……優しいだけじゃ駄目なんですよ」
「あァ?」
「貴方に傷付けられる御坂さんを見てると、その優しさを捨ててもいいとも思うんです」

優しさが彼女を傷付けるなら、この世界に必要ない。片想いの愛が彼女を苦しめるのなら消してしまえばいい。もう、彼女が涙を流す姿は見たくなかった。
だから貴方がもし、もう一度彼女を泣かせることがあったならば――その涙の為に僕は魔女になり、貴方を殺してみせましょう。





end.



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