向日葵と追憶と私と | ナノ



向日葵と追憶と私と














窓の向こうは青い空、白い雲、風力零、の九月の今日。

「あっつ……」
「…だにゃー」

二人して何も敷いていないフローリングにだらりと仰向けで転がっていた。ここの住人の一人である土御門舞夏が帰って来たならば、すぐに吸収力20%増の学園都市製の掃除機で吸われるの刑に処されるに違いないほど暑さに参っていた。御坂の制服のスカートも太腿から流れる汗のせいで湿り気を帯び始めていた。

「もう九月なのに…」
「今年は高気圧が日本海側に長居してるらしいにゃー」
「迷惑極まりないわね」
「美琴ちゃんの能力で何とか、」
「ならない」
「…ですよねー」御坂が来て十五分が経過するまではテレビを観たり、もう少し中身のある会話を交わしていたのだが今となってはこの有り様である。土御門が注いだオレンジジュースも外気温の影響で生ぬるくなっている筈だ。

「ねー土御門ぉ」
「はいにゃー」
「氷たべたい」
「は?」
「こ、お、り。アイス。どぅーゆーあんだーすたん?」
「いえすあいどぅー…ってお嬢さんは、このくそ暑い中、土御門さんに冷凍庫までの長い道のりを這っていけと申すのでしょうか!?」
「わかってるじゃない」
「くぅっ…ドS!このお嬢さんは生粋のサディスティックだぜい!」

御坂はにやりと笑うと、さっさと行った行った、と寝転がったまま手のひらをひらひらと振る。どこか女王様気質を持つ少女に彼の少年は従ってしまうのだろうが、土御門は『マゾヒズム』と俗にいう性癖に興味はなかった。どちらかと言えば、というのは彼の内心に留まるところなので不明である。

「じゃあこれからゲームして負けた方が取りに行くってのはどうかにゃー」
「えー」
「ふふん、もしかして怖いのかにゃー?第三位ともあろう御坂美琴が、」
「やるわ」

暗部で更にレベルの高い問題児を抱えている彼にしてみれば、彼女を煽ることなど造作もなかった。








「うぅ……卑怯よ、あんなの」

トランプゲームでもハッタリに振り回された彼女はあえなく敗北した。よくよく考えてみれば彼が御坂に負けたところ、否、ゲーム系統で負けたところを見たことがない為に明らかに分の悪い賭けだったのであるが。
半ば自棄になった御坂は土御門の口に氷をがばがばと放り込んだ。舌か唇かに貼り付いてこれは結構痛かったりするのである。

「もしかしてこれは美琴ちゃんがアッツいちゅーで溶かしてくれるというラッキーハプニ、」
「違うわよ、ばぁか」

御坂の呆れながら吐いた溜め息を最後に二人の間の会話は途切れる。蝉の鳴く声が近く、部屋の中にはからんからんという口の中で氷を転がす涼しい音だけが響く。

「秋になったらさ」
「うん」
「どこか行きたいなぁ。どこか遠く」
「…そうだな」

まだ少し、秋は遠いかもしれない。御坂と土御門は、色褪せない空の蒼さと日の眩しさを覚えながらそれぞれに想いを馳せた。きっと次の季節には、燃えるような暑さも想いも薄れることを願って。

「きっと、」
「ん?」
「秋になったら美琴ちゃんの紺と白のストライプパンツともお別れですにゃー」
「なっ、なんで知って」
「寝転がってれば短パンの中でも土御門さんの射程圏内で、」

御坂はついでにこの少年の変態レベルも下がってくれるとありがたい、と思いながら彼の背中を踵でぐりぐりと踏みつけたのだった。








end.



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110915

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