01 | ナノ





『ねぇ、あのさ、』
『あ、御坂様!おはようございます!』

朝から幾度こんなやり取りをしたか知れない。私は芸能人でもパンダでもない。レベル5で第三位の肩書きは、誇りであり、私の人間関係を狭めたり障害にもなる。
そして、また例の集団によって平和な日常は奪われる。

「身長体重3サイズ握力視力聴力能力最大値ミリ単位まで答えろ」

講義中に突然、トランペットケースを持って現れた一方通行先輩は私の隣にどかりと座った。講師までが萎縮してるとはどういうことだ。聞き取れないスピードで数値を挙げても、憎たらしいことに天才第一位様の可聴域だったようだ。

「オイ、行くぞ」
「はあ?私、いま講義中なんですけど」
「こンなクソ講義受けなくても死なねェよ」

可哀相に、マイクを通して女講師の声が震えたのを最後に聞いて教室を後にした。どうせ拒否権はないのだ。

「で?何で私はこんなものを持たされてるのでしょうか、センパイ」
「そのうっぜェ敬語と先輩呼びヤメロ。なンでかって説明しただろォがよ」
「いきなり拳銃投げて構えろっつったのはアンタでしょうが!説明になってない!」

ホテルに監禁、後に寂れた路地裏まで強引に連れ出された。立派な誘拐及び監禁罪が成立するのではないか。ホテルでするような『そういう』ことは何もされてないけれど。

「テメェには俺の片腕になってもらう」
「片腕?あ…」

説明は垣根先輩、じゃなくて垣根から聞いていた。なぜ一方通行が杖を必要とするようになったのか、そして彼を首輪のように縛っているチョーカーの存在を。
ならばやるしかない。知り合いとなった以上、見捨てることなんてできないから。

「あれを撃てばいいのね」

映画の俳優を真似て片手で拳銃を持ち、勢いよく引き金を引いてみた。しかし、弾は思った方向へ飛ばない。

「……あれ?これ壊れてんじゃないの?」
「チッ、ンな構え方で撃てたら一流の殺し屋だっつゥの」
「ひゃう!ちょっ、どこ触っ、」
「あァ?ガキのくせに感じてンのかよ」
「ち、違うってば!」
「いいか、片手撃ちなンざ無理だ。両手で持て」

相変わらず後ろからぞわぞわと息が吹き掛かって心臓が跳ねているけど、銃身が安定したことに気付く。これなら衝撃にも耐えることが出来そうだ。
ふう、と落ち着いてから、もう一度引き金を引いた。今度は的確な軌道で標的に命中する。

「ほォ、超電磁砲撃ってるだけあって筋はイイじゃねェかクソガキ」
「べ、別に大したことじゃ……ってクソガキじゃない!」

、何だか今までと印象が違うかもしれない。ぐしゃぐしゃと多少乱暴に髪を撫でられても嫌だとは感じなかった。年上って偉そうにしてるばかりで好きじゃなかった筈なのに、昨日だって一番仲良く出来ないタイプのやつだと思ってたのに。
トランペットケースの中に拳銃二丁を収めた彼の指導はこれにて終了のようだ。

「あの…!」
「あ?」
「その、また、明日」
「……あァ」

白い手をひらひらと振って、少し重そうにケースを担いで去ってしまった。その姿に何だかよく分からないような感情を抱いて思わずくす、と笑う。
これが楽しい、ということなのかもしれない。









ワインオープナーでこじ開けろ!



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110725


ここの一方さんは無愛想だけど困った時には話を聞いてくれる良きお兄ちゃん的存在。末っ子の御坂さんのピンチには一番にぶち切れるレベル5の長男です。
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