消失したキミと恋したい | ナノ



消失したキミと恋したい


※エロ注意









例えば、下らない話題で騒ぐテレビの音。トマトの缶詰めが良い具合に煮えている音。冷房の強い風の立てる音。日常的な音というのは、心が優しくなる気がする。
のだけれど私は今、鼓膜をぶち破ってやりたい。

「ぁっ…」

慌てて口を塞いで目をきつく瞑った。もう消えて無くなってしまいたい。何が悲しくて好きな男の家で、好きでもない、男の知り合いに犯されなきゃならないのか。誰か、今の状況を丁寧に理解できるように教えてください。できれば30字以内で。

「オイオイ、監禁SMプレイなンて中学生には激し過ぎンだろ」
「何の話よ変態バカ男!あんたが悪いんでしょ、あんたがこんなっ、」

しまった、と思った時には後悔先になんとやら。この切羽詰まった状況を微塵も知らないあいつの、のほほんとした声が聞こえた。

「ん?どうした、御坂」
「はは、何でもないわよ、そう、何でも…ひっ!」
「御坂?」

スリッパの音がぱたぱたと近付いてくる。
素っ裸じゃないとは言え、男に跨がって顔を赤くして喘いでる姿なんか見られたくない。それじゃあ、ただの淫乱な女じゃない。
間違ってもそれは避けたいのに、薄い胸を押しやっても全く動かない。こんな細い骨だけのやつのどこに力があるんだ。
というかこれは本格的にやばい――!

「気にすンな、猫だ猫。なァ、超電磁砲」
「あ、うん……」
「スフィンクスか。悪いな、しつけがなってなくて」

足音は遠退いた。けれど目の前の外道男に腹が立って、その背中に思い切り爪を立てる。眉間に寄った皺にざまあみろ、と鼻で笑ってやった。

「…本当になァ。爪まで立てやがって、ちゃンとしつけとけよ三下」
「〜っ!」

仕返しとばかりに一層強く奥を抉られた。頭が真っ白になるくらいの快感に何度も引きずり込まれそうになって、押し殺している声のせいで涙がぼろぼろと零れる。
キスでもして口を塞いでくれればいいのに、一応私を気遣っているのかそれは御法度らしい。犯すならもっと乱暴にしてくれないと困るのはこっちなのに。痕を付けなかったり嘘みたいに優しい愛撫だったり、そんなの勘違いしてしまう。

――こいつはあの子が好きなのに

そこではた、と気付く。
私とあの子。似ている、どころではない。あの子は私のクローンなのだから瓜二つ、まるでドッペルゲンガー。
つまり幼くてまだ手が出せないから、似た私を代わりにセックスして『セイヨクショリ』しているに違いない。信じられない。男という生物はこうもみんな非道なものなのか。

「……やめてよ」
「あァ?」
「やめろっつってんのよ!私はあんたのオカズでもダッチ人形でもない!」
「へェ…傷心の美琴ちゃンを慰めてやってンのにイイ御身分ですねェ」
「っな、なんで知っ、ああ!」

どうやら私はこいつの通行禁止区域に進入してしまったらしい。無遠慮な突き上げに身体が熱くなってとろけそうだけれど、この憎たらしい男が私の恋愛事情を知っている以上、身を委ねるわけにはいかない。どうせ実質フられたと同じなのに私が諦めついてないのも、この赤い目はお見通しなのだろうから――、

「あンな振り方ねェよなァ。ただのヘタレかと思えば、とンだ狐じゃねェか」
「はあっ…あいつを、わるく、言わないで…っあ、あん、ふああぁ!」

という建て前は、脳の中枢や脊髄までも犯す快感とかスカートの下の水音なんかにあっさり崩壊した。
所詮、私はこんな人間なんだ。いくら好き愛してる、なんて言っても、その男の鼻先で他の男に抱かれて犯されて悦ぶような最低な人間だ。そして、こいつはもっと最低だ。私の気持ちを知っていて、こんなことを言うんだから。

「忘れちまえ、あンなクソ野郎」
「あ、やっ、」

既に私に従わなくなった私の身体は、子宮でさえも欲望のままにこいつに媚びる。
どれも気に入らないことばかりだけど、結局は気持ち良いのが一番悔しかった。だから、

――がぶり。

「っ!」

その女みたいに真っ白な首筋に躊躇なく噛み付いてやった。すると私を追い詰める口から痛みを訴える呻き声が漏れたから何となく満たされた、までは覚えている。要するに、そこからの記憶はない。あまり認めたくない事実だけれど。意識が飛ぶ前の唇に触れたものについても忘れてしまおう。






上条がリビングに料理を持って行くと、一方通行の上で人形のように力の抜けた御坂の姿があった。

「お待たせしましたー!上条さん特製の…ってあれ、御坂寝ちまったのか?」
「あァ」

なぜ一方通行の上で、という疑問は御坂にとってありがたいことに、そういうこともあるか、程度の認識で処理されてしまった。御坂の恋心も複雑に糸の絡まった上の性行為も知らない彼は、自身のベッドに寝かせてやるように一方通行に指示する。そのとき、彼の首筋の見慣れない噛み痕と血が目についた。

「それ、どうしたんだ?」
「……猫に噛まれたンだよ」
「へえ…スフィンクス、滅多に噛まないのになぁ。よっぽど嫌われてるんだな、一方通行」

上条の言葉に、彼はその顔をじっと見つめた。どう考えても歯形の大きさが違う、など色々と突っ込みたい気分も消え失せるほど鈍い少年に溜め息を吐き出したくなるのも仕方がないことだろう。

「…世界で一番嫌われてるかもなァ」
「え?」

そのまま席に着いて『上条さん特製パスタ』を食べ始めた一方通行と穏やかな寝息を立てて眠る御坂、そして足下に擦りよるスフィンクス。彼らを順番に見て、上条は猫もしっかり躾ないといけないなあ、と的外れなことを心に留めるのだった。


end.






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110902

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