star carnival | ナノ



star carnival

※検体番号は都合上のものです







路地裏という名の、異次元の如く閉ざされた空間、まさに裏の世界の象徴。
だからこんな、表に住む女が居て許される筈がない。それも――両手を他人の血で真っ赤に染めて。

「一方、通行……」
「オマエ、その血は…」

手のみならず、制服までもが赤かったから、一歩見間違えば、こいつ本人が怪我をしてると思っただろう。

「あの子、殺しちゃったの」

静か過ぎる凛とした声にぞわ、と寒気が走る。
赤いマニキュアを施したような指が差す先には女が一人。ドクドクと胸や腹から流れた液体が路の両端に血溜まりを作っている。新手のアーティストが描いたかのように壁一面は綺麗に真紅に染められていた。

「まさか、この女…」
「あれ、あんた知り合いなの?」
「あの三下の女だろォが」

『なぜ』、その問いはもう必要ない。それより他を考えなければならない。頭は情報を組み立てて結論を導き出そうと動く。

血まみれの女が二人(内一名は死亡確認)、血痕は広範囲に飛散。

真っ先に伝達神経は指に命令を下し、ある番号に電話をかけさせた。

『――はい。こちら検体番号14445号』
「…実験のフローチャートは覚えてンな」
『勿論です、とミサカは答えます』
「臨時出張だ。第七学区の個体を回収、早急に現場を処理しろ」
『わかりました』

滑った生暖かい手を掴んで足早にその場を離れた。




打ち止めが来る時以外、使われることのないテレビをつけるが、特に取り上げられて報道されているものはない。あいつが上手く隠蔽したようだ。恐らく『その分野』の技術は、外部のベテラン検察官にも勝る。
さあ、これからどうする。

「……一方通行」

別のクローンに持って来させた代えに着替えて、ぼけっと突っ立っていた。だが、それ以上何も言わない。一体何なんだ。風呂に無理やりブチ込んだのが悪かったのか。

「怒ってる?」
「はァ?」
「だ、だって、何かイライラしてるみたいだし…」
「あァ、別に怒ってねェよ」
「そう」

会った時から違和感はあったが、こいつの精神は既にぶっ壊れている。追い詰められた後に自ら破壊して、結果としてベクトルが方向性を見失った。悪戯した幼児が親の顔色を窺うような表情が正にそれだ。

「ンでどうすンだ、オマエ」
「そっか、捕まりに行かなきゃいけないのか。おかしいよね、『邪魔なもの』を消しただけなのに」

犯罪者どうのの前に、こいつは学園都市第三位のレベル5の一人だ。研究者共からすれば喉から手が出るほど欲しい実験体だ。
高値で売りに出され、買取先で苦楽を伴う実験をされ、原形を留めない程度に解剖、改造される。最終的にはホルマリン漬けで永久保存か、途中の作業ミスで人間モルモットかのどっちかだ。どっちにしろ、生き物として全うな死は待っていない。
無論、正義という馬鹿げた空論を語るつもりはない。すべきことは一つ。
後付けの事実など関係ない。こいつが『御坂美琴』である以上、全てを捨ててでも。

「テメェの敵、全部消してやる。だからここにいろ」
「邪魔じゃないの?」
「ここに連れてきた時点で俺は共犯者なンだよ。オマエが捕まりでもしたら道連れっつゥことだ」
「共、犯…?」
「別に大したことじゃねェ」

びく、と怯えた笑顔を取り繕うように髪を撫でてやる。こいつの笑顔が守れるなら、何だっていい。

「俺とオマエだけの秘密だ、いいな」

その言葉に異常な胸の高鳴りを覚えたのは、多分俺の方だ。それは性的な快楽と似て、よく身体に馴染んだ。
匿うのは檻を設えることに等しい。摂取できるのは差し出されたものだけ。聞けるのは俺の声だけ。見れるのも、俺だけということだ。こいつは俺なしでは生きられない。この感情を正当化するのが、『世界を敵に回しても守る』なんて、キレイな愛の証明に使われている定理だというのは何とも滑稽なことだ。

それから三日が経過したとき、携帯電話が着信を告げた。見たことのない番号だ。

『あ、一方通行?えっと、上条当麻です……あのさ、インデックス知らねぇ?三日前に出掛けるって言ったっきり帰って来ないんだ』

男の言葉に頬が緩む。
誰も知らない、この男でさえも知らない事実を握っているということは客観的に証明されたのだ。嬉しくない筈がない。

「悪ィが知らねェなァ。他ァ当たれ」
『そっか、わざわざ悪かったな。じゃ、』

電話は切れた。どこを捜しても女の影すら掴めないことが少し不憫に思えた。

「ねえ一方通行、昼寝しない?今日は絶好の昼寝日和よ!」
「ハイハイ」

――完全犯罪。欲しかった『完全』が手に入った。あの処理された死体は今も、どこかの廃ビルの地下に放られているのだろうか、それとも既に灰と化しているだろうか。

幾度も街中で見かけた、ツンツン頭の男と銀髪の女が幸せそうに笑い合っていた記憶が脳裏に蘇る。あの二人は永遠に片想いなのだ。打ち止めから聞いた、七夕伝説の男女のように。彼等も星になるというのなら、何とロマンティックなことか。白いシーツにくるまった女を抱きながら、同情の海に身を投げた。



end.



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110714

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