水葬ピグマリオン


※例によってぬるグロ&両者病んでます








ガチャ、

「…………」
「……入るの」
「あァ」

別に珍しくない。朝帰りした男が女の入浴中に、うっかり忘れてマシタ、みたいな雰囲気で入ってくるのは。最初こそ躍起になって追い出していたが、あいつのあまりの性欲の無さにそれも面倒臭くなった。
あいつは私の何に存在価値を見出して、「ここ」に置いているのだろう。
水嵩が少しだけ増えた。やっぱり細い男だ。



相手のカラダを見たって何も感じない程度にすることはした。だからといって、そこにアイがあるかと問われたら、それはまた別問題だ。

だって一方通行は、いつも私を人形のように抱く。
特別に愛の言葉を吐くわけでもない(あり得ない)し、コトが済めばさっさと仕事に行くし、あんな窒息死寸前のキスだってそうだ。
人として愛されてない。だから一方通行の玩具として都合の良いように利用されて、はいサヨナラ、なんていつか来る日が怖い。

「殺してきたの?さっき、血がついてたけど」

相変わらず、あの綺麗な赤はそっぽを向いたままだ。瞳だけが赤くて、肌は白い。つまり裸の私に対する羞恥や罪悪感は全くない。今更気にしないけど。
――なんて嘘。本当は人形じゃなくて、女として見てほしい。人間だったら、誰より近くで、ずっとそばにいられるから。吊り糸で操られてるからじゃなくて、私の意思であんたの隣にいたいって、言わせてよ。

「女だった」
「え、」
「今回の対象だ。なかなか愉しませてくれてよ、テメェとは大違いだったなァ」
「なに、が、言いたいの」
「従順でイイ女だったってンだよ」

ばしゃ、と水音を立てて、あいつとの距離を鼻先5cm。ビスクドールのように白い髪を乱雑に撫でた。
そうだ、こいつこそ人形だ。血色の瞳に陶磁器みたいな真っ白な肌。戦慄を覚えるほど綺麗な顔立ち――心底むかつくのに、独り占めしたい。

「その女の方がいいって言うの。そんなの許さないわよ」

一方通行を制御している黒いチョーカーに手を伸ばした。本当は、これも煩わしい。壊せば、こいつは私のものになるんでしょう。

するとそのとき、一方通行は鏡に手を伸ばして、もう片手は私の手に重ねたままチョーカーのスイッチを押させた。この状態で能力使用したら――あまりの恐ろしさにひゅっと息を呑んだ瞬間、鏡が割れてガラスが散った。

「あぁぁあああぁあ!!」

濡れて水分を含んだ皮膚が鋭利な、しかもベクトル操作で加速したもので切られたらどうなるか、なんて簡単に予想できる。頬や腕に綺麗な裂傷が刻まれていき、白濁色の湯に血が吸い込まれた。
そこに私のじゃない指が頬をぬるりと滑っていく。

「やーっぱりオマエの啼き方は最っ高に淫乱だなァ」
「っ!」
「どンな殺し方したってオマエほど綺麗な女はいやしねェ」
「じゃあ、さっき、までのは……」
「全部演技だっつゥの」

そばにいたい、なんて人工の純愛は脳内で殺された。騙されたことも相俟って私の視線は怒りの色を含んだのだろう。
一方通行は残酷に笑って傷口に指を突き入れた。内部が掻き回される音が気持ち悪い。

「同情なンざうっぜェだけなンだよ。テメェはそうやって俺に抗ってりゃイイ。それで俺はキモチヨくなれるンだからよォ」
「ぅ、あっ…!」

所詮、私は人形以上には成り得ない。だけど人間も適わないほど、一方通行に気に入られているから私の望んだ通り、誰よりも近くにいられるのだ。昔、私が片時も離さなかったぬいぐるみや人形のように。
そしてこいつは広くて寂しい部屋で、一人遊びを繰り返す。

「なァ、遊ンでくれるンだろ?美琴」

嘘みたいに優しく笑った一方通行に私は頷く以外答えを知らなかった。
何が正しくて、何がオカシイのかも分からない。私は思考力も感覚以外の何もかもを壊すのかもしれない。今だって、痛くて苦しくて愛しくて、糸が絡まって息さえできないの。








end.

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110614

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