逆説的懺悔が叫ぶ愛









どうしてこの人は、自由になれないのでしょうか。明るくて花のように綻ぶあの笑顔を私たちは奪ってしまったに違いありません。なぜなら、私たちの前でこの人は一度たりともその笑顔を向けてくれたことはないのですから。

「いいのですか、とミサカは問い掛けます」

ふわりと風に靡く髪はミサカのものと変わりはない筈なのに幾分か質が良いのでしょう。けれどその髪を撫でることのできる人は、この世界に一人いるかいないか、それだけ貴重な権利なのです。

「いいのよ。この年になったら、誕生日にそれほど感慨はないわ」
「誕生日パーティーというのは毎年開かれているのでしょうか、とミサカは疑問をぶつけてみます」
「まあ、大体そうね」
「では、去年も一昨年も、ミサカは祝えなかったことを今更ながら後悔します」
「そんなくだらないこと気にしないでいいの」

妹達全員はお姉様がどんな幼少期を過ごしてきたのか、どうレベル5に上り詰めたのか、など勿論知りません。それが少し寂しいと感じることもあります。
お姉様は滅多に自分のことを話さないのですから、私たちは知る機会すら与えられていないのです。――お姉様の抱える闇も。

こうして見ているだけでは辛いのです。だからお姉様を傷付けてでもミサカは、

「くだらなくなんてありません。ミサカ達の大切なお姉様の誕生日なのですから、とミサ、」
「そんなの嘘よ!…わたしが、私が生まれたから、あんた達は一万人以上も殺されたんじゃない。私の生があんた達の死を生んだのよ!だから、大切な、なんて言われる資格、ない」

そう、お姉様を傷付けているのは他でもない妹達なのです。それが分かっても、左の心臓が痛いのは、私たちがDNAレベルで繋がっているからですか。

「あんたには、私なんか死ねばいいのにって言う権利があるんだから」

言える筈がないのに。
私たち妹達は、被験体として生まれたのですから死ぬことが当然、いえそれが一種の生かされている意味だとさえ思っていました。
だけど、お姉様とあの少年がいたから。そしてミサカ達を守るあの人がいるから、今ここにいるのです。

「それはお姉様がいなかったらミサカ達は存在しなかった、という事実の証明にもなりませんか、とミサカは分かりきったことを尋ねます」
「それはっ……」

レベル5というのは、似た思考回路を持つのでしょうか。そうであるなら、ミサカはあの人の誕生日も同じようにこの言葉を贈りましょう。

「お誕生日おめでとうございます、とミサカは妹達全員を代表してお姉様を祝福します」

この身体が与えられたことに意味があるのなら、それはきっと、その涙と苦しみを受け止める為だと、そう思ったのです。





「――お姉様、そんなに泣かれると、」
「わかってるわよ!でも、だって、止まらないのよぉっ…!」

なんと可愛らしい。これは庇護欲というものなのでしょうか。
お姉様が妹達を守るようにミサカもお姉様を守りたいと思うのは、おかしいですか。もしもそれが叶わないというならば、せめてこの感情を口付けに託します。

「なッ、」
「嫌でしたか、とミサカは顔を真っ赤にしてノーの答えを出しているお姉様に尋ねます」
「いや、そりゃあ嫌じゃないけど、ていうかそうじゃなくて!どういう、」

つまり、

「ミサカはお姉様が大好きなのです、と大告白してみます」

ですから神様、この優しい人をどうか、お救いください。








end.





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110609

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