ノンシュガーレスって甘いの?苦いの?





あいつは妙に大人びたところがある。実験をしていた頃は人でなしだ何だと思っていたけれど。目的もなく呼び出したって文句一つ言わずに(ため息ひとつくらいは吐かれてしまうけれど)来てくれるし、行き先に困っていたら映画行くぞって沈黙の続かないように気を遣ってくれるし、当然のように歩道側を歩いてくれる。だからこそ子供の私はどうしたらいいか分からなくなってしまう。
あいつが気付くはずもないし、そう変わるわけでもない。なのにベージュのマニキュアを塗ってみたり、ヘアピンを変えてみたりした。少しでもあいつに釣り合うように。でもそんな小さなことで年齢という絶対的な差が埋まらなくて、

「……意外よね」
「何が」
「べっつにぃー」

訝しげに顔を顰めたあいつにブラックコーヒー、私には甘ったるいココア。
計算高い私は、柄にもなくロマンティックな映画を選んで。佐天さんからロマンティックなラブシーンがあると聞いていたから、もしかするとあいつが顔を赤くしたりしてくれないかな、と思った。まあ、よく考えれば分かることかもしれない。一方通行が照れるなんて、カフェイン中毒者がココアを飲むくらい有り得ないことだ。常に不機嫌そうにしていて、大抵のことでは動じない。それに拍車を掛けるように火照る顔を押さえながらちらりとあいつに目をやると何とも悲しいぐらい、つまらなさそうに例のシーンを見ていたものだから顔の熱も気分もすっかり冷えきってしまった。

私にとっては大人だと思う告白やキスもあいつにとっては何ということもなくて。私が誰と街を歩いていても、他の男とメールをしていても顔色一つ変えない。対する私は、妹である打ち止めにも番外個体にも妬いてしまって、

(あー、ダメだ…こういうとこが子供なんだろうな)

マドラーでかき混ぜた、ぐるぐると渦巻く白い軌跡は、私の憂鬱さそのものだった。
偶に戸惑いながら手を繋がせてくれるのは、その延長戦上にあって、おまけのガムシロップみたいなものなんだろう。

「……はぁ」
「何なンですかァ?人のツラ見て溜め息ついてンじゃねェよ」
「あたっ」

額が細くて折れそうな指にびしりと弾かれる。打ち止めには頭撫でるのに私にはデコピンか。私には一度だってしてくれないくせに。何か、もう、

「……つかれた」
「あン?つゥかオマエ、」
「触るなばかああああ!!」
「…っ」
「私の電磁波があんたの電極によくないのは分かってる…私があの子達よりずっと子供っぽくて、すぐ嫉妬してあんたを困らせてるのも知ってる。けど、ならどうしたらいいの?どんなに背伸びしたって大人になんかなれないじゃない!いつになってもあんたは私のこと見てくれないじゃない!こんなに好きなのにっ――!!」

叫んで訴えても息が切れるだけで、零れたのは子供じみた独占欲と涙だけだった。これじゃあまるで本当に母親と離れたくない子供みたいだ。私はいつからこんなに腑抜けてしまったの。
そうだ、全部こいつが悪いんだ。私に際限なく優しくしたり甘やかしたりするから。

「『こんなに好きなのに』ねェ…まァた派手な告白ですねェ」
「なっ、あ、あんた」
「三位ごときの攻撃が第一位に効くと思ってンですかァ」
「う…」

いつの間に後ろを取られたのか、ぞわぞわとした感覚を耳に感じながらきっと睨んでやる。にやにやと得意気に笑う顔が憎たらしいのに、顔が熱くなる私は本当にどうしようもない。

「ったく、マセたこと言ってンじゃねェ。ガキはガキでイイだろォが」
「ちょっ、髪いじんな!しかも何も分かってな、」
「そのままで充分カワイイって言ってンだよバァカ」
「……へ?か、かわ、」
「まァ冗談だがなァ」

そこで私が雷雲を呼び起こして、全部反射するあいつにこれまた腹が立って破壊し尽くしたところに黒子がやって来てこっぴどく叱られたわけだけど。それまでずっと燻っていたどろどろした感情は綺麗に消えていた。子供のままでいいと、今のままの私でいいと思える。たぶん欲しかったのは、かわいいとか好きだとかそんな言葉じゃないんだ。

「し、しょーがないから手、つないであげる」
「へェへェ、何だっけか。ツンデレ美琴ちゃン萌えーってかァ?」
「ばっ…ばか!」

本当の本当はね、あんたの笑顔が欲しかったんだよ。大人になれなくても他の誰になれなくても、それで私は満たされるの。



ノンシュガーレスって甘いの?苦いの?


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111016

女の子な美琴さんと一方さんのリクより。
一方さんは美琴さんを可愛がりながらも実験のトラウマで壊れちゃわないかと不安で正面から抱き締めてあげられなくて、でも美琴さんはそんな一方さんを知る由もなく恋する乙女でガンガン攻めちゃう構図です^^普段より甘めな電磁通行も可愛いですね!……え、女子力?なにそれおいし(ry


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